専門家だからこそわかる「超個性」! デカ孔による縦振りスピード違反…… リミッター付き高出力エンジン搭載モデル

当たり前のラケットが多いこのご時勢に生まれた「超個性」!
〜 「王道」&「挑戦」を両立させるプリンスが面白い 〜

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これだからプリンスってブランドは面白い!
40年ほど前の「ウッド → カーボン化時代」、フレーム成型法の自由さが、さまざまな形状&機能のラケットを数多く生みました。それまでのウッド時代は、薄い短冊状の板を数枚重ねて、加熱しながらゆっくり曲げ、型にはめて接着を待つという製法……だけだったから、あたりまえの形状であたりまえの性能(せいぜい面の大きさの違いくらい)しか実現できなかったのが、’80年代初頭、ラケットフレームをカーボンで作れる時がきて、発想の枠が飛躍的に拡大しました。

フェイスがシャフトに対して斜めに付いていたりとか、フェイスの形状が長方形〜六角形〜八角形〜十角形など多彩な顔だったり、超軽量ラケット〜超高反発厚ラケ〜長ラケなど、ラケット設計者たちも、おそらく楽しみながらラケットを企画していたことでしょう。

それがさらに進化した現在、もっと過激な進化系が登場している……はずだったが、ラケットは「薄ラケコントロール系」「反発スピン系」「ラグジュアリー高反発系」などに「群類化」されて、それぞれが固定的なスペックとなり、『変なヤツ』が出てこない。すべてのラケットが「コース分け」されてしまって、みんなそれぞれのコース内に収まった形でしか作ってもらえません。

「ラケット野次馬オヤジ」としては、「つまんな〜い」んです。事情はわかるんですよ。みんな「ハズレ」を出したくないんです。なんかやらかして失敗したくない……くらい余裕がないんです。

みなさん、ラケットを新調しようと思ってショップヘ行っても、どれを選んでいいかわからない……各コース内では、どのブランドを手にとっても、なんだかみんな似てるでしょ。それに、姿形が同じで、重量設定が違う『おそ松くん』(60代読者限定比喩)みたいなラケットがズラッと並ぶ。同じ顔してるけど、最重量モデルと最軽量モデルじゃあ、まるで違うラケットですよ。

その点、プリンスって、ラインナップのしかたが紳士的です。同シリーズのバリエーションはおもに「フェイス面積」の違いか、明確な個性の違い(O3搭載など)。そのなかで重さだけが違うモデルには、重量を数字でハッキリ記してわかりやすくしています。こんなことができるのも、プリンスラケットの「仕上がり精度の高さ」があるからです。仕上がり重量の誤差が大きければ(それが普通ですけど)、明確な数字を出すのは自爆行為です。カタログにスウィングウェイトを明記しているのも「プリンスだけ」ですよ。

プリンスには【グラファイト】という王道モデルがあり、【ファントムグラファイト】へとクロックアップしたことで再認知され、以前にも増して評判が高く、売上もグングン伸びているとのこと。白い【ツアー】も競技系モデルの王道系として、若いプレーヤーに大好評です。

こういうのがあるから、プリンスは大冒険ができるのです。近年の「挑戦」が大成功した特筆的な例が【プリンスX】シリーズです。企画当初は「100」の1モデル、しかも「右利き用のみ」の予定だったのが、予想外の大好評で、いまや左右用あわせて18アイテムまで発展しちゃいました。

だいたい「シャフトが捩れてるラケット」なんて、ふざけてるでしょ! こうした面白いアイディアラケットは、各メーカーとも「興味は示す」でしょうが、本気でやっちゃったりしないものです。でも『やっちゃうプリンス』が、筆者は大好きです。

『O3』史上最大の「デカ孔作戦成功」は、技術進化の賜物
〜 トップスピンで振れる! スライスサーブが曲がる! 〜

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そんなプリンスが、トンガリ方をやめません。今シーズンのニューフェイス【ビーストマックス100】の「マックス」は、【ビースト】シリーズの中で、「パワーとスピンが最大級」という意味が込められています。

【ビーストマックス100】の根幹コンセプトが『ニューOポート2』という、ドデカい孔です。そもそも『O3』というコンセプトは、【初代グラファイト】で絶賛された「グロメットレス構造」と「高強度高剛性フレーム」を同時実現した『MORE』フレームからスタートしています。20年以上前、馬喰町の喫茶店でこれを初めて見せられたときの愕然さは、鮮烈な記憶として残っています。テニスギアジャーナリストとして、「この手があったかぁ……」というショックでした。

この設計思想を発展させて誕生した『O3』コンセプトは、ストリングホールを大きくすることで、ストリングの可動支点をフレームの内側から外側へと移し、見かけのフェイス面積よりもひとまわり大きい「ストリング稼働面」を生み出して反発性能をワンランク上げるパワー化に成功したもの。

見るからに……「異形のもの」でした。見かけのイメージをはるかに上回る反発性能に、当初は多くのプレーヤーが戸惑うほどでしたが、近年では先入観を持たないプレーヤーたちによって、その存在価値が再評価されています。振り上げ方向への空気抵抗を低減して、振り抜きやすくする効果も付随し、スピン系スウィングを求めるプレイヤーには「目からウロコ」のコンセプトなのです。

それが【マックス】に機能するのがコイツ!
『ニューOポート2』の孔が、尋常じゃないデカさっ!
もうスッカスカ……

室内で素振りしただけでも「振りやすさ」はすぐに実感できますが、実際にコートへ出てボールを打とうとすると、まず「えっ! インパクトポイントがズレて真ん中に当たらない」……
なんと、「振れすぎちゃう」んです。

なんだかラケットを振っている気がしない……
まるで、ストリング面を直接に振っているような……
それが筆者の第一印象でした。
これ「ヤバいやつだ……」。

反発系シャフトに面周りはボックス形状、反発性能にリミッター機能が働く(気がする)
〜 軽く当てれば軽快に飛び、思わず叩いてもフケない安心感 〜

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現代のテニスラケットは一般的に「ボックス形状:コントロール系」、「ラウンド形状:スピン系」と言われますが、【ビーストマックス100】は、両コンセプトのドッキングフレームです。

まるで板かまぼこのような半ラウンド形状の高剛性シャフトは、インパクトによる捩れが少なくて剛性が高いために「高反発性能」を発揮します。これに対してフェイス部分は、「球乗りがいい・打感がいい」と言われるボックス形状フレームで構築されます。このコンバインによって、「よく弾くけれども、球乗り感を感じる」フレームが、『O3』のコンセプトと見事に重なっているじゃないですか!

シャフトの外側には、ちょうどレール軌道のように「パワーレール」が縦に走っています。シャフトをさらに堅牢にして捩れを抑え、ボックス形状のフェイスを安定させるのです。「高反発性」と「球持ちのよさ」の共生ですね。

スピン系軌道で振り上げれば、『ニューOポート2』効果による、空気抵抗の大幅な減少が、スピン量増加をもたらします。そして厚めに当てれば、楽な感触で球乗り感があって、すなおな打球コントロールもできます。

筆者がいちばん面白いと感じているのは「リミッター効果」です。こういう高反発系モデルは、一般的に言う「フケる」ことがあります。相手のペースに乗せられて、うっかり強打しちゃうと、打球がスッポ抜けるようにブッ飛んでいってしまうのが特徴ですが、【ビーストマックス100】は見るからにハイパワーモデルなのに、「フケる」ことが少ないように感じます。

強打した後の『ニューOポート2』をよく見ると、ストリングが『ニューOポート2』を通るルートの外側で「動いている」のがわかります。『ニューOポート2』近くのストリング面を両親指で強く押してみると、ストリングがルートの外側で動くじゃありませんか。

これがオーバーパワーをコントロールしてくれる「リミッター」の役割をしているんじゃないでしょうか。軽くスウィングすれば軽快に弾き、ガツンと打てば球乗りがよく、しかも、とんでもないフケ方はしない『リミッター付き高出力エンジン』が【ビーストマックス100】のストリング面だと思います。プリンスの公式コメントには、この性能効果は謳われていませんが、筆者はこの効果を確実に感じ、非常に面白いラケットができたもんだと感心してしまいました。

それからプリンスからは……これまでのラケットと同様の飛びを期待する場合は、ストリングを張る際に「2〜3ポンド高めで」と依頼するのがポイントです……とのこと。それだけハイパワーだということを承知しつつ、ご自分に最適なテンションを探してください!

松尾高司(KAI project)

text by 松尾高司(KAI project)

1960年生まれ。『テニスジャーナル』で26年間、主にテニス道具の記事を担当。 試打したラケット2000本以上、試し履きしたシューズ数百足。おそらく世界で唯一のテニス道具専門のライター&プランナー