豊潤な伸縮性と打球性能のバリエーション。 「素材と構造の競演」であるナイロン系ストリングから、自分に最適なスピン増強策を探せ!

ナイロン系は人工素材ストリングの元祖であり、さらに未来がある!
〜 そもそもポリとナイロンの違いって 〜

これから春に向けてラケットフレームの新製品が続々登場します。悩みに悩んだフレーム選びなのに、ストリングをどれにするか? プロが使っているからとか、先輩に勧められたからなんて理由で簡単に決めちゃってないですよね。

テニスという競技では、ボールをインパクトするのはフレームではなく「ストリング」です。どのストリングを張るかによって、打球性能は天と地ほど違います。そんな大切な武器であるストリングのこと、あなたはどのくらい知っていますか?

大流行の「ポリエステル系ストリング」ですが、その市場占有率ほど「適合ユーザー」がいるとは思えません。つまり「じつは適していないのに、なんとなくポリがいいと思って使っている」という方が、けっこう多いということですね。

でも最近では「ポリを使っていたけど、ナイロン系を試したら、自分にはそっちが合っていることがわかった」と、乗り換えるプレーヤーが増えてきています。そこで今回は、ナイロン系ストリングのことを詳しめに話したいと思います。

ストリングはまず、天然素材からできている「ナチュラルガット」と、人工素材でできている「シンセティックストリング」に大別されます。そしてシンセティックストリングは、素材別に「ナイロン系」と「ポリエステル系」に分かれます。一般的に「ポリ」と呼ばれているのは「ポリエステル系ストリング」のことですね。

でも、ほとんどの合成樹脂は「ポリ◯◯◯◯」という名が付けられ、単に「ポリ」と呼んで「ポリエステル」と通用するのはテニスストリングの世界だけです。「ナイロン」とは言いますが、ナイロン=米国デュポン社が開発したポリアミド繊維の商標で、正式には「ポリアミド」ですから、これだって「ポリ」ってことに……、でも違いますよね。だから「ナイロン」と呼んだほうがわかりやすいかな。

「ポリ◯◯◯◯」のひとつであるナイロンは「世界初の合成繊維」で、科学的にはプラスティック素材です。さらに分類すると「エンジニアリングプラスティック」の中の「汎用エンジニアリングプラスティック」に属するのがナイロン。

素材としてイメージしやすい代表的なものが「ナイロン:ストッキング」で、「ポリエステル:ペットボトル」でしょう。同じプラスティックでも、使われ方がずいぶんと違いますね。テニス用ストリングでは、ナイロン系は「細い繊維状の糸の組み合わせ」で作られ、ポリエステル系は「ノズルから放出したままの単一糸」です。

素材性能的な個性としては、「ナイロン:伸縮性」で、「ポリエステル:耐衝撃性」が挙げられます。ナイロンはストッキングに使われることかわもわかるように「伸縮性が豊か」で、ポリエステルは「頑丈」です。

ですから、インパクトスピードが超高速で、ナイロンなどではすぐに切れてしまうようなプレーヤーには「ポリエステル系」が適し、スウィングスピードがそれほど速くはないという方には「ナイロン系」が向いていると、一般的に言うことができますね。

ナイロンポリ系が辛いなと感じたら、まずはナイロンモノを試してみよう
〜 移行の1stステップは「太めのモノ」が秘訣 〜

OD246

自分のスウィングがプロ並みにパワフルで、超高速打球をガツガツ打てる方には、ポリエステル系の「強靭な瞬発力」がマッチするし、強度的なことを考えてもポリエステル系が必要でもあります。強烈なインパクトがあるならば、表面が硬くて、縦糸と横糸の交差点での摩擦抵抗が少ないポリエステル系のほうが、スナップバックによるスピン効果を得ることができます。

ただ「ポリ→スピン」と言えるのは、伸縮性の低いポリエステル系でもスナップバックを起こせるだけの超高速インパクトスピードを持つ方であって、誰でもが可能になることではないので、どうか誤解しないでください。ゆったりスウィングの方がスピンを期待してポリエステル系を使っても、おそらく期待が叶えられることはないでしょう。

ではそういう方が満足できるストリングって、どんなものなのか?

まずは「ナイロンモノ」を試してみてください。ポリエステル系よりも、明らかに軽快で、楽にボールを飛ばすことができます。

ナイロン系ストリングには、構造的に違いのある「モノフィラメントタイプ」と「マルチフィラメントタイプ」があります。モノフィラメントは「太めの芯糸をメインに細い側糸が巻き付けられている」構造で、太い芯糸の瞬発性能が、軽やかで伸びのある打球を生み出します。

またマルチフィラメントは「超極細繊維を束ねた芯糸がメイン」の構造で、柔らかくてマイルドな打球感を味わわせてくれます。どちらを選ぶかは、自分が使うラケットフレームのと相性や、プレーヤー個人の好みによります。もしもポリエステル系からの移行であれば、まずは「太めのナイロンモノ」を張って試してみるのがいいですね。

なぜ「太め」かというと、太めのほうがポリエステル系に近い感覚で打てるからです。ストリングの「太さ」「細さ」は、打球感と打球の飛距離に影響します。太ければ伸縮力が抑えられるため、ちょっとだけ鈍くて、飛びを短くできます。打球感はダイレクトになります。ちなみにプリンスが表示する【16】【17】はゲージ表示で、数字が大きいほど細くなります。

細くなれば、打球感は繊細・敏感になり、伸縮性が強調されて、ボールはよく飛ぶようになります。ただし、太いのに比べて細いほうが伸びやすいため、性能寿命も切れにくさの寿命も短くなることを忘れないでください。ストリングが切れることが多いという方は、まずは同モデルの「太めのタイプ」を使ってみてください。それだけで問題が解決する場合もありますよ。

プリンスの最新ナイロン系「高性能ストリング」がクロックアップ後継!
〜 マイルドな打球感にスピン性能を載せた根本再構築モノ 〜

OD246

さて、ひとくちに「モノフィラメント」と言っても、いろんな内部構造があり、それが大きく打球性能に関わってきます。それがまあ面白いんですけどね。モノ芯や側糸の太さや素材、構造、モノ芯と側糸の構造的バランスなど、バリエーションは無限に存在します。

テニスショップに展示してあるストリングのパッケージに、内部構造のイラストがあったりしますよね。無頓着な方にとっては「だから何? 使ってナンボでしょ」とおっしゃるかもしれませんが、あの構造の違いが「使ってナンボ」に直結するのです。

まさに今月、プリンスからモノフィラメントの新モデル【TOPSPIN X PLUS】が登場します。これまであった【TOPSPIN XX】の進化型後継モデルで、単一糸だったモノコア(芯糸)に代えて、縦に3分割したモノコアを採用しています。その断面は「3つの扇形の組み合わせ」になります。同時に、その素材も変更されました。

こうすることでモノコアが構造的な柔らかさを発揮し、インパクト時の衝撃を受け止めて緩和。さらにモノコアの伸縮性能が増し、ボールを弾き出す感覚が鋭敏になります。プリンスではこの構造を『トリプコアテクノロジー』と名付け、どんどん硬くなっていくフレームに対応して、俊敏さとスピード感を活かしながら、マイルドなモノフィラメントストリングを提供してくれます。

また従来モデルからの変更点はモノコアだけに留まらず、モノコアに巻き付ける側糸の太さや、本数構成、さらに巻き方まで根本的な再構築が図られ、性能バランスが整うように最適化されています。言ってみれば「新しいストリングの構築」がなされているわけです。

張り上げられた【TOPSPIN X PLUS】面の表面は、凸凹感が強く出て、インパクトでのボールへの喰い込みが増し、スピンをかけやすくなります。スピンがかかるメカニズムには幾通りもあり、使うプレーヤーのスウィングやパワーにもよるので、どれがいちばんと言うことはできません。

ポリエステル系ストリング面をスナップバックさせるには、それなりのスウィングスピードとボールを十分に潰せるだけのパワーが必要であり、誰にでもできるものではないですから、もうちょっとゆっくりスウィングの方への別選択肢として「ナイロンモノのスピン増強構造」は価値がありますね。

でも忘れないでくださいね……。「これを使えば誰でもスピンが増す」ということではないと言うことを。まずは「スピンをかけるためのスウィング軌道」が絶対条件です。そのうえで「かかりやすい」、しかも打球感がマイルドで快適になって、飛びの爽快感もある……となると、【TOPSPIN X PLUS】を使ってみる価値はありますね。使わずにあれこれ言ってても始まりません。『使ってナンボ』です。

松尾高司(KAI project)

text by 松尾高司(KAI project)

1960年生まれ。『テニスジャーナル』で26年間、主にテニス道具の記事を担当。 試打したラケット2000本以上、試し履きしたシューズ数百足。おそらく世界で唯一のテニス道具専門のライター&プランナー