ある意味で「事件」です。
楽ちんフットワークの『ワイドライト』がフルモデルチェンジ。
究極のインナーソールがデフォルト搭載された!

【ワイドライト】というスタイルが求められる状況
〜 ラクだけど安心、疲れにくいシューズとは 〜

プリンスデカラケの登場と同調するように、1980年代に大ブレイクを果たした世界のテニス界。あれから40年近くがたとうとしていますが、その間にテニス事情は大きく変化してきました。若者たちが熱狂し、高額所得者たちがリゾートで贅沢に過ごした’80年代。学生たちが就職し、ブームが落ち着いてきた’90年代。不況の影響やオーナーの代替わりによる相続税問題などを受け、都会からテニスクラブが消えていった2000年代。日本人選手などの活躍が脚光を浴び、「もう一度テニスをやってみようか」とラケットを握るリターン組が目立った’10年代。

日本のテニスプレーヤー事情は紆余曲折あったけれど、どの時代においても「バリバリ競技派」と「テニスは楽しむためにやるもの派」とが両立していました。雑誌などで注目を浴びるのは世界のトップスターや日本で頑張っている選手、若者たちですが、日本のテニス界を本当に支えているのは「ベテランプレーヤー」「オジさまプレーヤー」「奥様プレーヤー」「ウィークエンドプレイヤー」です。その現実は、テニスギアを製造販売するメーカーが身に滲みてわかっているのです。

そうしたみなさんへ向けた情報が少ないのは、テニスメディアに関わっている人間として、とても残念です。とくにテニスシューズに関する情報はほとんどなく、みなさんショップヘ行って初めて知るという感じです。

WIDE LITE 3

たまにメディアで報じられるとしても、競技者向けトップモデルしか取り上げられず、それとは対極にあると言っていい「軽量モデル」「ワイドモデル」は、なかなか情報発信がありません。しかし、日本人の足型がいくら「狭くなった」と言われながらも、幅広……昔で言う「甲高・だんびろ」の足型の方は、まだたくさんいるんです。

ちなみに「だんびろ」ですが、「だんびら」が訛ったものと考えられます。「だんびら=段平」とは、背幅が広い刀を示す言葉で、したが、やがて庶民は日本刀全体を指して「だんびら」と呼ぶようになりました。おそらくその「幅広」の意味を引っ張りつつ、「広」に入れ換えて「だんびろ」という言い方になったのだと思われます。

たしかに、この10年くらいでテニスシューズの「競技用モデル」は幅が狭くなり、タイトなフィット感のものばかりになりました。激しいフットワークを支えるには、シューズの中で少しも足が動かないほうがレスポンスが高く、俊敏な動作が可能になるため、プリンスでも【ツアープロZ】や【ツアープロライト】というモデルがあります。でも、これでは「足がツラいよぉ!」というプレーヤーもけっこう多いんですね。

学生プレーヤーでも「試合には競技向けトップモデルを履くけれど、普段の練習ではもっとラクなタイプを履きます」という選手が少なくありません。彼らの場合は消耗も激しく、少しでも節約したいという気持ちもあるでしょうけど。

厳しい練習に耐えながら頑張っている学生たちでも「練習はラクに」と考えるのですから、オジさまたちが「シューズはラクなほうがいい」というのは当然ですよね。それが【ワイドライト】なんです。この世界は絶対に必要であり、「ワイドなんて、なんだかねぇ……」とカッコつける必要などなく、堂々と「オレはこれがいいんだ!」と選んでほしいわけです。

「激変フルモデルチェンジ!」の実態はこんなかんじ
〜 I→II→III と柔らかくなったアッパー 〜

WIDE LITE 3

さて、プリンスのワイドモデルとして、その名にはっきり示した【ワイドライト】は、これが三代目です。最初の【ワイドライト】は、「足入れ感はしっかりワイドなんだけど、見た目がスマートでカッコいい」とされて、ベテランプレーヤー、さらに足を細く見せたい女性プレーヤーにも大ウケでした。

二代目の【ワイドライトII】は、形はまったくそのまま引き継ぎつつ、アッパーを薄くややソフトにして、さまざまな足型タイプのプレーヤーに快適に履いてもらおうというマイナーチェンジが施されました。このシューズのファンはベテランばかりではなく、まだまだ元気な成人プレーヤーにも受け容れられました。それは、みせかけの「快適感」ではなく、やや激しいフットワークでもしっかり安心感のある支えとなることが理解されるようになったからでしょう。

そして今回の三代目ですが、初めて見たとき「えっ!? これが【ワイドライト】?」と思うほど、見栄えも実態も完全変身! これまでの「ワイドだけどスマートに見える」という気取りを捨て、明確に「ワイドだぞぉ〜」と主張する雰囲気です。

そして目をひくのは「ローカット→ミッドカット」へのチェンジです。ミッドカットといっても、昔ほど深いものではありませんが、くるぶしの下に軽く触れる程度の履き口アップとなっています。これは、各社がミッドカットを完全に捨て去った後でも、プリンスが残し続けたコンセプトでしたが、初代【ワイドライト】でローカット化されてから、プリンスからも消え去っていたのを、三代目で復活させた形です。おそらく綿密なマーケティングの結果、まだまだミッドカットは求められているという結論に至ったためでしょう。

外観チェックの後、足を入れてみてもビックリしました。これまでの【ワイドライト】とは、まるで別の世界……。とくにつま先部の印象が違います。これまではつま先部のアッパーは足の形状に沿って低めにセッティングされていました(これが他のワイドタイプと違うところでもありました)が、三代目は足指の上に広い空間があります。足幅の感覚は以前と同じですが、足指の自由度が大きくなっています。

そしてアッパー素材の樹脂がグッと柔らかくなり、その分、厚さが増しています。従来のスマートな印象から一転して、足全体を柔らかく包むような印象が強くなっています。となると、「それじゃカチッと感が消えて、不安定になっちゃうじゃないの」という声も聞こえてきそうですが、そう感じさせない仕掛けがあり、そこにこそ、【ワイドライト】フルモデルチェンジの謎が隠されているのです。

キーワードは「アッパーとフットベッドのバランスが変わった」……です。

足裏に吸い付くような高機能インナーソールを標準装備
〜 スペシャルインナーソールが無料で付いてくるってこと 〜

今回の新【ワイドライト】の最大のミソが「インナーソール」です。今日のテニスシューズでは、「インナーソールはあえて特別なものにせず、必要があれば個々にカスタマイズすればいい」という考え方がスタンダードですが、プリンスではかつて「ノーマルタイプ」&「アーチサポートタイプ」の2種類のインナーソールを同梱し、プレーヤーが好みに応じて選べる展開をしていました。これはプリンスシューズが初めて実現し、長年に渡って続けてきたことだったのです。

Arch Supporter 2.0

それほどプリンスには、インナーソールに対する、強い想いがあります。だからこそ踏み切ったのが『アーチサポーター2.0』という、明らかに他とは違う「高機能インナーソール」の標準装備です。これは通常、カスタマイズ用としてインナーソール屋さんが高価格で発売しているものと同レベルといっていいほどの内容。

これが目指しているのは「安定性向上」です。そのために足裏が正常に機能すべくサポートするアーチサポートシステムと、踵部を立体的に包み込んでシューズとの一体化を図るための深いヒールカップ構造が備えられています。こうした特殊な形状を崩さないために、『アーチサポーター2.0』は、上がノーマル+裏底が硬い層の2層構造を採っています。

この2層構造にはもう一つの機能があります。通常のインナーソールでは、強く踏み込むと、その力が一部分に集中するため、ミッドソールがそこだけ深く沈み、どうしても部分的な圧縮疲労が重なり、ミッドソールの性能寿命を縮めてしまいます。ところが『アーチサポーター2.0』には裏底の硬い層があるため、一部分だけの沈み込みを防止して、踏み付け力の分散を実現することができ、それにより足裏が不自然に傾くことなく、広い面として足裏を安定させることができるシステムです。

じつはこれもかつてプリンスシューズが独自技術として採用していた『LINEAR=リニア』テクノロジーという「力分散・安定性向上」システムで、それをインナーソールに組み込んだのが『アーチサポーター2.0』なのです。

『アーチサポーター2.0』の圧巻さは、「縦アーチのボリュームある盛り上がり」にもあります。かなり強く下から押し上げられる感じがします。それが縦アーチの落ち込みを防止するため、土踏まずを構成する「足底筋」の必要以上の伸縮を抑えて疲労を軽減し、縦アーチ落ち込みによって生じる不安定感を解消します。ただ、アーチが低くて扁平な足の方にとっては、押し上げ感が強すぎるかもしれないので、購入前にかならず試履きして確認することが必要です。せっかく購入したのに、履いてみたら合わなかったと放置するのは、あなたも不幸ですし、【ワイドライトIII】も気の毒、プリンスも喜びません。

さらに巧妙に隠されているのが「横アーチサポート」です。横アーチとは、拇指球(親指の骨の付け根)と小指球(小指の骨の付け根)を結ぶラインの中央が少しだけ凹んでアーチ状を形成するもので、ここも足のバネ効果や安定性を生む重要な部分であり、そこを下から押し上げてやることで機能的疲労を軽減するのが「横アーチサポート」なのです。

過去に付属していたアーチサポートタイプのインナーソールでは、上面にはっきりと凸があったため、この感覚に慣れていないプレーヤーから「違和感がある」と評されました。そういう方はノーマルタイプのインナーソールを選べばよかったわけですが、今回の『アーチサポーター2.0』は標準装備ですから、違和感を持ってほしくありません。そこで考えたのが、「凸部を裏側に配置して、広がりをもって横アーチの落ち込みを防ぐ」ということ。先に述べたとおり、裏底部は硬質素材でできていますから、素材的にも機能保持性が高くなります。じつによく考えられた構造です。

こうしたシステムによって、アッパーはゆったり優しく包みながら、足裏はガッチリとホールドすることができ、従来は「全体でホールド性をキープ」していたものを、【ワイドライトIII】では、「役割を二分化し、それぞれの性能を向上させた」ことによって、総合性能を引き上げたのです。これが「アッパーとフットベッドのバランスが変わった」という意味なのです。

シューズ機能の大半を決めるミッドソールの「意外に複雑」な構造
〜 フワフワしてりゃぁいいってもんじゃない 〜

4D LITE TECHNOLOGY 2

最後に、みなさんにぜひわかっていてほしいことについてお話しします。それは「アスレティックシューズは、見えない部分こそ重要」ということです。足を入れた感触、足裏に感じるサポート感、踏み込み衝撃に対する衝撃緩和性(クッション性)、あらゆる動きに対する足の安定性……、これらのことは外観からは想像できない場合がほとんどです。

これらの重要素を決定付けるのがミッドソールです。その中身は、分解してみないと確認できません。でも、いろんなものが内蔵されていて、それぞれが確実に機能しているのです。「クッション性」というと、単にフワフワした足入れ感を想像する人がいるかもしれませんが、それだけでは不安定感が増し、踏み付けた力が返ってきにくいため、むしろ疲れが増します。そのために、必要な部分に必要な分だけ、踏み付け衝撃を緩和しながら、その力を押し返してくれる素材(P-Spring Lite II)を組み込んであります。

足の捩れをコントロールする「シャンク」もとても重要で、「内側へは捩れやすいが、外側へは捩れにくい」構造をビジュアル的にも主張する「Double Shank」が組み込まれているのも、やはりミッドソールです。30年以上も長くテニスシューズを見ていると、ミッドソールを非常に重視するメーカーと、そうでないメーカーがあるのがわかるんですが、プリンスはテニスブランドとして異常なくらい、一所懸命に考え、工夫しています。拍手を贈りたいですね。

そんなメーカーが気合いを込めてフルモデルチェンジした【ワイドライトIII】を、ぜひテニスショップの店頭で試履きしてみてください。とくに、従来の【ワイドライト】【ワイドライトII】を履いていた方は、かならず試履きして、どこが変わったかを確認してみてください。それが合うか合わないかは……あなた次第です。

松尾高司(KAI project)

text by 松尾高司(KAI project)

1960年生まれ。『テニスジャーナル』で26年間、主にテニス道具の記事を担当。 試打したラケット2000本以上、試し履きしたシューズ数百足。おそらく世界で唯一のテニス道具専門のライター&プランナー