1978年、常識を破壊したデカラケがテニスを変えた。2018年、常識を超えた【Prince X】が夢を現実にした。バックハンドにフォアハンド同様のパワーを注入する「捻り」技術に注目!

ほぼすべてのプレーヤーが「バックハンド<フォアハンド」
〜それを「あたりまえ」と諦めない開発者がいた〜

フォアハンドとバックハンド

みなさんが初級者だった頃、いちばんの悩みは何でしたか?
まず最初に教えられたのはグリップの握り方と、フォアハンドストロークで、それなんとかカタチになりかけた頃になってようやく、バックハンドストロークを教えてもらったのではないでしょうか。

その頃に比べれば、今はなんの抵抗感もなく、フォアもバックも打っているのだと思いますが、なかには「どうしても満足いくバックハンドを打つことができない」と悩むプレーヤーもいると思います。

どうしてフォアハンドはちゃんと打てるのに、バックハンドはうまく打てないと感じる人が多いのでしょうか?
まずフォアハンドとバックハンドの特徴を挙げてみましょう。

スイング軌道 スイング幅 スイングスピード
フォアハンド 自由に調整しながら振れる 広い 高速
バックハンド 自由度はないが安定して振れる 狭い 中速以下

いろんな調査機関の報告によると「バックハンドをフォアハンドと同じスイングスピードで振れるのは、世界トップレベルでもごくわずか」ということです。つまり、ほとんど誰でも、フォアハンドよりもバックハンドのほうが攻撃力に欠けるということですよね。
「いや! 僕はバックハンドのほうがパスで抜ける!」という方もいるでしょうが、それはきっと、バックハンドのほうが安定していて、打球方向やスイング軌道を相手から隠しやすいという利点を生かすのが巧みだったりするおかげでしょう。

結局は、スイングスピードの差による、インパクトパワーの差ということになり、バックハンドがフォアハンドより弱くなるのは「あたりまえ」とされてきましたが、もしもバックハンドにも、フォアハンドと同じような攻撃力を持たせられたら……? と妄想したラケット設計者がいます。

最大の問題は「フォアとバックのバランス関係は崩れない」ということでした。バックハンドでの反発性能を向上させようとすれば、必然的にフォアハンドでのパワーも増すためにオーバーパワーとなって、フォアとバックのパワーバランスは変わりませんよね。
でも、フォアハンドの反発性能を変えることなく、バックハンドだけ反発性能を上げることができちゃったら…… そう真剣に考えたのがプリンスなのです。

「フォアハンド用」&「バックハンド用」の2本を持つのと同じ……という考え方
〜エゴイスティックなラケットを作る〜

Prince Xシリーズ

常識ではありえません。
反発特性はフレームの個性であり、1本のラケットに2種類の反発特性を持たせることなど、バカバカしくて考えられてもきませんでした。もしも簡単な操作で、瞬間的に反発特性を変えることができるような装置があったとしても、おそらくルール上で認められないでしょう。

また、フォアハンドを打つときと、バックハンドを打つときで瞬時に持ち替えることができる神業を持ったプレーヤーがいたとしても、ルールでは「持てるラケットは1本のみ」と定められていますから、不可能です。
ラケットのフォア打球面とバック打球面それぞれにストリングを張る(つまり2セットのストリング面がある)ラケットも存在しましたが、ルール的に認められないため、公式な試合では使うことができません。

でも、1本で2本分の役割を果たすラケットがあり、それが何かの装置によるものではなく、構造的に発揮されるものがあったとしたら、ルールに抵触することはなく、夢のラケットとして君臨することができるはずです。

とてもエゴイスティックで身勝手な話です。不可能として誰もが諦めてきたことを、なんとかして自分の手に入れたいなんて、エゴ以外の何ものでもないでしょう。しかし、そのエゴこそが、人類の文化を発展させてきた源であることを忘れてはいけません。

かつてハワード・ヘッド氏が、小さいラケットを使っていて、どうしてもうまく当たらなくて、下手な自分でもちゃんとボールを打ち返せるようにと『デカラケ』を作ってしまったのも、彼のエゴから生まれた発想です。
今まさに、それと同じことが起ころうとしています。

フォアハンドはこれまでの感覚そのままに打つことができつつ、バックハンドにおける反発性能だけが向上する、ウソのようなラケットがプリンス【X】なのです。

バックハンドでの飛び性能を向上させるために「捻れたシャフト」
〜フォアとバックとでインパクト時の反発システムが違う〜

Twist Power Technology

プリンスが仕掛けを施したのは「シャフト」でした。見た瞬間にすご〜く違和感のある「捻れた」シャフト形状。右側のシャフトと左側のシャフトが非対称形状です。まるで、和服を着るときの襟重ねみたいです。これまでのテニスラケットの在り方から考えると、『非常識きわまりない』ものですよね。

つまりこの形状は、フォアハンドで打つときの面(フォア面)と、バックハンドで打つときの面(バック面)とで、シャフトの形が違うのです。フォア面のときは、グリップ上部から太く伸びる側のシャフトが上になり、バック面のときは、それが下側にきます。

こうすることで、ボールインパクト時のフレーム変形の挙動に差異が生じます。フォアハンドの場合は、力強いインパクトとなって、スイングのパワーがそのまま打球へと伝達されるような挙動を示します。
逆にバックハンドの場合は、打球面のしなりが発生しやすく、しなり→戻りによる反発サポートが加えられるのです。

そう! もうお気付きの方もいると思いますが、このラケットは右利きの方が使うのと、左利きの方が使うのとでは、まったく逆の性能を発揮してしまうため、テニスラケットとしては世界で初めて「右利き用」と「左利き用」が別々に用意されることになります。

新しい常識はプリンスが作る。そしてそれがテニスを変える
〜「何事も小から大へと広がる」 by池波正太郎〜

この「過去の常識を打ち破るシステム」は、幅広い層にメリットをもたらします。
半年前、初めてこのラケットの存在を知り、説明を受けたとき、このラケットは中級レベルよりも下の、バックハンドをちゃんと打てないという、ごく限られた人にだけに向けられたものかと思いました。つまり、バックハンドには悩みなどないと考える上級レベルプレーヤーには、無用のものと感じていたわけです。

ところが、プリンススタッフの試打コメントをチェックしたり、先行試打会における杉山愛プロやコーチレベルのプレーパフォーマンスをじぃーっと見つめていると、みんな快適に打っているのです。

ほとんどのプレーヤーが、フォアハンドの第1打を、とくに違和感なく打ちます。パワフルなスイングをする方でも、ズドーンと打ち込んでいます。そしてバックハンドでの第1打。いつもと同じようにスイングする方が「アレっ?」という表情をします。いつもより飛びが大きいことを自覚するようです。そして第2打は、一所懸命に振らず、いつもより楽なスイングで、わずかに弾道を低めに調整し、伸びやかな打球を放つのです。

また、とくに秀逸なのが「バックハンドスライス」。楽なスイングで、シューッと描かれた弾道に、打った本人がウットリするという場面も垣間見られました。
明らかにこれまで使っていたラケットとは違います。

それを違和感と捉える方がいるかもしれませんが、違和感のないものに進化はありません。ときおり「進化の兆し」のことを、違和感として排除しようという動きがあります。ですから、モデルチェンジに際しては、設計者は「たとえ高性能化できるとしても、大きくは変化させない」手法が採られたりしますが、このプリンス【X】は完全なるイノベーションモデルですから、違和感など「ドーンと来い!」です。そんなもの、数球打てば慣れてしまうけれど、打球結果には、あまりあるメリットをもたらすのです。

かつて池波正太郎氏が「何事も小から大へと広がる」という言葉を残しました。デカラケの登場直後は「ウチワみたい」とか「オバケラケットだ」などと揶揄されましたが、現代では昔のような小さなフェイスのラケットでプレーする人など、まったくいません。小さな始まりが、全世界のラケット事情を変えるほどの大きな波を作ったわけです。

現代ラケットでスタンダードとされるスタイルの元を築いたのがプリンスです。
【X】ツイストテクノロジーは、これからのスタンダードとなりうる可能性を詰め込んだ、新しいイノベーションとして評価されるべきものと考えます。

松尾高司(KAI project)

text by 松尾高司(KAI project)

1960年生まれ。『テニスジャーナル』で26年間、主にテニス道具の記事を担当。 試打したラケット2000本以上、試し履きしたシューズ数百足。おそらく世界で唯一のテニス道具専門のライター&プランナー