XR-Mの「M」は「マニューバビリティ=操作性」。 操作性が高いのにパワーがあるラケットは どうやって生まれたのか !?
「赤ハリアー」に、操作性の「青ハリアー」が加わった
〜変わったのは、打感と飛び感〜
今回は、まさに今月ショップに新製品として入荷するタイミングの【ハリアープロ 100 XR-M】について書くことにしましょう。そのレクチャーを担当してくれたのは、ラケット部門企画開発チームのリーダーである、相馬安紀氏です。
昨年発売されたフェイス部内側が赤の【ハリアープロ 100 XR】と新製品【ハリアープロ 100 XR-M】は、非常に近い兄弟モデルながらも、区別しやすいように青を採用したとのこと。
ここではわかりやすいように、従来モデルを【赤ハリアー】、ニューモデルを【青ハリアー】と勝手に呼ばせていただくことにします(非公認ですけど)。
赤から青に変わり、モデル名が【XR-M】となったわけですが、追加された「M」は「マニューバビリティ=操作性」の意味で、「スウィングウェイトを小さくして扱いやすくするけれどもパワーがある」というコンセプトを表わしているということです。
そのために行なったのは、スウィングウェイトを少しだけ落として操作性を高めるということ。通常はスウィングウェイトを落とすとラケットのパワーも低下しますが、それを補うための対処を行ない、これによって不足分を補っただけでなく、むしろパワーアップを図ることができたといいます。
パラレルホール採用でパワーアップ&打球有効エリアが拡大したんだ
〜周辺の反発機能が増し、スウィートエリアが広がる〜
では【赤ハリアー】と同じフレーム形状で、どのようにパワーアップさせたのでしょうか?
我々が知りたいのは、そのへんの仕掛けですよね。
キーワードは「パラレルホール」。
具体的に言うと、斜め上方と斜め下方部分のフレーム内ストリングルートを、フレーム外周からストリング面まで真っ直ぐに通すように変更しています。そうすることで、ストリングの伸縮機能エリアが拡大され、スウィートエリアの拡大と、ストリング面全体のパワーアップにつながるのです。
【青ハリアー】では、横糸19本のうち、2本めから18本めまでの糸が、すべて平行に入っていますし、縦糸16本のうち、最外側を除く14本が縦にストレートに入っています。簡単に言うと、スウィートエリア周辺で、機能するストリングの長さが伸びていることになり、オフセンターエリアのパワーを向上させ、ミスショットも減らせるわけですね。
スウィングウェイト軽減は、ラケットとしてのパワーを多少は落とすことになるという批判的な意見もありますが、逆に、スウィングしやすい分だけ「スウィング速度を向上させられる」メリットがあります。インパクト速度が上がれば、打球パワーは増すのです。
だからなんでもかんでも、スウィングウェイト軽減をマイナス評価するべきではないと思います(カットしたほうがいいかな?)。高速スウィングをできないプレーヤーにはデメリットに思えるかもしれませんが、振りたいプレーヤーには快適性が増すという意味で、【青ハリアー】はおおいに評価できると考えています。
ストリングパターン変更も【青ハリアー】の大きな魅力だ!
〜たわみやすいストリング面が、快適感とスピン性能を↑〜
さて、【赤ハリアー】と【青ハリアー】ではストリングパターンが違うところにも注目しなければなりません。
【赤ハリアー】のストリングパターンも16×19ですが、【青ハリアー】はいちばん上の横糸の位置がトップからやや遠い位置にあります。赤と青の違いはいちばん上の糸の始まる位置が大きく違う点です。【青ハリアー】は最上横糸がトップから遠くに配置されていることがポイントなんです。
さらに両者のストリングパターンを比べてみると、
【赤ハリアー】は全体的にマス目が均一っぽい大きさで、トップ側までカバーされている感じですね。
【青ハリアー】は周辺部に比べて中央部が細かく、上下が大きく開いている感じ。この違いが、打球感に与える影響ってどのようなものなのでしょうか?
相馬氏は、開発段階で数多くのテスターに、度重なる試打を依頼してきました。ほんのわずかなスペック変更も、実際に試打してみてどう感じるかを、最終判断基準とするためです。
ストリングパターン変更による打球感の違いについては、【赤ハリアー】がカチッとしている印象なのに対して、【青ハリアー】はボールを包むような感覚が強くなる……というコメントが多いようでした。
また、スピンのかかり具合の印象については、テスターそれぞれに違っているようです。
目の粗さがボールへの引っ掛かりをよくしてくれるから【赤ハリアー】がよくかかると言うプレーヤーと、【青ハリアー】は目が細かいけど、ボールド感が高いことでスピンのかかりをよくしてくれると言うプレーヤーと、2つの意見があります。
その感じ方は、プレーヤーのスウィングの個性によって違ってくるように思います。
よく宣伝文句に「スピン量:○%増加!」と謳われたりしますが、筆者は「スピンが増すかどうかは、スウィングとの相性でしょ!」と思っています。
スウィング方向、スウィング速度、どのくらいの面角度でボールにぶつけるかなどで、スピンのかかり方や感じ方はまるで違ってきます。ですから、一概に「○○だからスピンが凄い!」とは言えないのではないでしょうか。
スピンに関しては、自分のスウィングで試してみて確認するのがいちばんですね。
最適化のために細かく検討された変更スペック
〜2ピーススロート、高弾性グロメットスリーブ〜
【青ハリアー】には、新しく取り入れた細かな変更点もあります。それは【青ハリアー】に最適化するためのもので、【赤ハリアー】が古いという意味ではありません。
まず「2ピーススロート」。本来、スロートというとシャフトとブリッジで構成される三角部分全体を指して言いますが、ここではブリッジに挿し込まれるグロメットを2分化し、しっかりストリングを支える硬めの樹脂を外側に、フレームに接触する側には、やや柔らかくて弾性の高い樹脂パーツを組み合わせたものを指します。
これによって打球感はマイルドさを増しました。
次に、フェイス部外周でストリングの通り道を支える「グロメットスリーブ」に使用する樹脂の材質を、より高弾性のものに変更している点です。
なぜこの変更が必要だったかというと、その柔軟性がなければ、パラレルホール対応のグロメット孔に、歪みなく挿入することができないからでした。
ただ結果的には、この高弾性グロメットスリーブを採用したことで、基本的に雑味のないテキストリーム採用フレームから、さらにいっそう細かな雑味を消し去ってくれる効果が生まれたといいます。
グロメットスリーブでは、もうひとつ変化したところを発見しました。
それはフレーム内側に飛び出すグロメット孔の大きさが、【赤ハリアー】のダブルホールに比べて【青ハリアー】のほうは極端に孔が小さくなっている……ストリングにピタリと接触してほとんど隙間がない状態になっていることです。
その理由について開発リーダーの相馬氏に訊ねてみると
「両方を用意して、最終的にプレーテストで決定しました。多くのテスターたちにブラインドで比較テストしてもらい、このラケットに関しては、より雑味がなく、クリアな打感を得られるのがこちらであるということで決定しました」とのことです。
プリンスのラインナップポリシーは「1アイテム:1ウェイト」と固定されていましたが、【青ハリアー】は300g、280g、265gと3ウェイト設定にしています。それぞれの打球性能は「まったく違うラケット」と言っていいほど違っているのです。
【赤】なのか【青】なのか? そしてどの重さがいいのか?
どの【ハリアー】が自分に適しているかは、実際に試打をしてみて確認してください。
「楽天ジャパンオープン」では、会場にプリンスのブースが出展され、週末には試打会も予定されているとのこと。有明は、テニスを観るだけではなく、いろんな情報で溢れているところ。ちょっと覗きにいってみてはいかがでしょうか!