地味の中に隠された「粋」。【プロツアーライト8】は毎年、確実に研ぎ澄まされていく!

地味の中に隠された「粋」。【プロツアーライト8】は毎年、確実に研ぎ澄まされていく!

次から次へと新製品が発売されるのはどうして?
〜 ショップが新製品を欲しがる理由 〜

黙っていても売れるものは、変わる必要がありません。
というか……変えられないのです。
ではなぜ、ほぼすべてのテニスギアが、2年あるいは3年ごとにモデルチェンジされるのでしょうか?

まずショップ側からの要求として……「売り場に目新しさがほしいから」。これは今日のすべての市場において言えることです。次から次へとラケットのモデルチェンジを行なうことで、店頭では「新しい感」が演出されて、売れ行きは伸びる。だからショップ側はメーカーに対して「ニューモデル」を求めるわけです。

使う側としては「現状のままでいいし、まだ十分に使えるよ」と思っていても、メーカーとしては、ニューモデルを投入していくというのが市場原理なのですね。

もう一つは「使う側のスタイルが変化するから」。テニスは漸進的にプレイスタイルが変化し、それに応じて「求められる性能」も変わってきます。そのために、ラケットもシューズも、ニューモデル投入に当たって細かなスペック変更が行なわれ、それが進化へと繋がっていくわけです。

ただラケットの場合、使用中のセットアップが完全に自分にマッチしすぎているために、スペック変更されたことによって「違和感」を感じてしまい、「同じじゃないなら思い切って……」と、別モデルへ乗り換えてしまう例もありますね。

じつは、ちょっと使い込んで慣れれば、従来モデルよりも良い結果が得られるかもしれないのに、路線変更を感じさせて、リニューアル継続を途絶えさせてしまうのは、とても残念なこと。ですからプリンスは「極端な変更ではなく、メリットを感じ取れる“更新”」というスタイルで、目新しさよりも、実用的な「進化」を重きを置いているのです。

良いものを永く提供し続けるのが「プリンス・プライド」〜 テニスシューズは「変わらないこと」にも意義がある 〜

ラケットとは違って、テニスシューズは「消耗品」ですから、性能進化に期待して買い替えるというより、むしろ「同じであることを求める」人も少なくありません。

シリアスプレイヤーのシューズ選びでは、毎回、違うブランドに乗り換えることは少なく、「ブランドとの相性」を重視するプレイヤーが多くて、極端なヘビー・モデルチェンジでもなければ、安定して同ブランドの同モデルに買い替えることが多いのではないでしょうか。とくに消耗度の高い競技者の場合、同じモデルを何度も購入することが少なくありませんね。

ですからユーザーは、視覚的にも「同じ形であること」に安心します。
それが「ユーザーの期待」なのです。いかにも「変わりましたぁ!」にも興味はありますが、どんどん高額化するシューズに「失敗購入したくない」という警戒心が強くなってもいるのも事実。

ところが、一見、同じように見えるのに、目に見えにくいところで確実に進化しているのが【ツアープロライト8】というモデルです。見た感じ「どこか変わっているのっ?」と感じさせちゃいますが、昨年モデル【ツアープロライト7】で、その前のモデルから、かなりの進化を遂げていますし、ニューモデル【ツアープロライト8】は、さらに進化しています。

それは「敏感な人」ならば、足を入れた瞬間に感じるはず。

手元に届いた【ツアープロライト8】を箱から取り出し、まず細部にわたって観察します。同じである部分に安心し、変化しているポイントに注目します。

アッパー素材が「ニット」というのが大きな特徴ですが、素材的に「やわ」な印象があるかもしれません。でもこのモデルは、サイドサポートはむしろ堅牢で、一般的には「6孔」のシューレースパターンが、「7孔」。足の甲へ吸い付くようにフィットし、シュータンは厚さが増して、甲への優しさも十分。

とくに筆者が気に入っているのは、つま先の上側アッパー(指の爪が当たる部分)がツンと持ち上がった処理のしかたです。足指が動きやすく、指で「ギュッ」と掴む感覚を得られるのが好きなんです。

シューレースは「平紐」タイプで、出荷時には「美しい面」を感じさせる丁寧な編み上げがされています。使い始めても、この状態を保つために、紐を締めるときもできるだけ注意して「捩じれないように」します。

ニット素材なのにホールド性が高く、左右への安定感が高いのは、ニットの下に隠されている「アッパー補強パネル」のおかげです。これには従来モデルよりも多くのパンチ孔が開けられ、通気性と柔軟性が高められているのですが、左右への安心感は、むしろ強化されているように感じました。

「ダブルス専用」って謳っているけど……
〜 軽快・機動型スタイルのトップモデル 〜

この【ツアープロライト8】について、プリンスでは「ダブルス、ボレーの動きにフォーカスしたニューコンセプト」と謳っています。

この表現によって「ダブルス専用なの?」と誤解をしてほしくないなと思います。あくまで最大安定性能モデル【ツアープロ Z】に対して、【ツアープロライト8】は「前後の動きがしやすい」ということであって、競技シングルスでも十分な性能を確保しているじゃないですか!

シングルスでも、ベースラインプレイヤーは左右への安定性を重視するのが【ツアープロ Z】。前後へも動いて機動力のあるオールラウンドプレイヤーに向けたのが【ツアープロライト8】と考えてください。

今回発表されたモデルのアッパーデザインは、シンプルさを究めた『完全白』と『完全黒』。とくに白モデルは「輝くほどの白さ」です。なんだか洗剤の宣伝文句みたいで気恥ずかしいですが、でも本当に白いんです。

面白くないデザインなどと見誤らないでください。よく見ると、ニットの編み方に「柄」があって、非常にオシャレで凝っていることがわかるはず。派手な外観で目立とうとするシューズが多いなか、「地味に見えるけど、隠れオシャレ」なのが【ツアープロライト8】です。

外観的に指し色があるのはミッドソールの部分だけで、おとなしい印象ですが、蹴り上げたときに垣間見せる「マーブル柄」は、いまや多くのメーカーが真似していますが、最初に採り入れたのはプリンス!
「隠れ派手」という「粋」なのです。

円安のせいで、どうしても高額化してしまうテニスシューズですが、これならば「¥19,200」でも損をしたとは感じはないはずです。

松尾高司(KAI project)

text by 松尾高司(KAI project)

1960年生まれ。『テニスジャーナル』で26年間、主にテニス道具の記事を担当。 試打したラケット2000本以上、試し履きしたシューズ数百足。おそらく世界で唯一のテニス道具専門のライター&プランナー