現代テニスに大変革をもたらしたパイオニア。【プリンス グラファイト】は、今なお「美学」として君臨する。

「木の時代」に衝撃をもたらした二大革命の寵児
〜 カーボン&デカラケは世界を変えた 〜

テニスの原型は、紀元前まで遡り、あらゆるスタイルを経た後、16世紀に「網状のストリングが張られた木製のラケット」が誕生。そして1873年、現代テニスの元となる「ローンテニス」が、英国有閑層のホームパーティでの遊興として楽しまれるようになって大ヒットしてから、ラケットはずっと「木製」でした。

若いみなさんには「信じられない」ことかと思いますが、50代後半のテニスファンならば、木製ラケットを使ったことがあるかと思います。約100年間続いた木製ラケットの時代は、金属製やグラスファイバー製の時代を経て、「カーボン製」の時代へと移り変わります。当時は「カーボン」とは呼ばれず「グラファイト」と呼ばれていて、その呼び名を世界的に認知させたのが【プリンス グラファイト】でした。

プリンスラケットの創始者「ハワード・ヘッド」は、それまで「70平方インチ」が常識だったラケットを「110平方インチ(正確には107平方インチだった)」にして、難しかったテニスを「みんなが楽しめるスポーツ」にするため、1972年に「デカラケ」を発明します。当初は「ウチワみたい」「オバケラケット」「ヘタな人が使うやつ」などと揶揄されましたが、それを使うプロが世界の檜舞台で大活躍するようになって、ついに「デカラケ」は市民権を得ます。

その象徴が、現代もなお姿を変えることなく愛され続ける【プリンス グラファイト】なのです。木製ラケットの1.5倍という大型ヘッドサイズは、トッププロたちに強烈なパワー&スピード&トップスピンを与え、彼らの多くがその恩恵を武器に栄冠を勝ち取ります。

大型ヘッドサイズを安定させるのが、オープンスロートのシャフト部にまたがる「クロスバー」。カーボンの素材的進化のために、今でこそ、それに頼ることはなくなりましたが、当時の「クロスバーの恩恵」たるや、世界中のラケットメーカーが、こぞって真似るほどでした。

1968年に生まれた【プリンス グラファイト】は、「ラージサイズ」&「グラファイト製」の元祖というべき存在であり、その姿と名称が、誕生から46年たつ現在もそのまま引き継がれていることは、移り変わりの激しいラケット業界において、まさに奇跡です。

でももっとスゴいのは、それを求めるプレイヤーが、現代も数多くいる! ということですね。

絶え間なく受け継がれてきたプリンスの血統
〜 1978→2024……姿と称号が守られた理由 〜

こんなラケットは、どこを探しても存在しません。名前は残っていても、デビュー当時の姿を、ほぼそのまま残しているモデルなど皆無です。【プリンス グラファイト】も、時代の要求に応じて、素材やテクノロジーの進化を受け容れてゆきますが、フェイス面積とフェイス形状、クロスバー、ブラックにグリーンストライプという「血統」は、見事なまでに受け継がれます。

いったいどうして、【プリンス グラファイト】だけが「残り続けている」のか?
【プリンス グラファイト】が9万円もした時代を知るベテランにとっては「憧れ」。数多くのプロが、このラケットを使って世界へ羽ばたいていく姿に、自分のテニスを投影したこともあったでしょう。

世界がラージサイズ・ブームからミッドサイズ時代へ移行し、やがてミッドプラス、現在の「100平方インチ」、さらに「もうちょっと小さいサイズ」へ。20mmくらいのフレーム厚から厚ラケ時代を経過し、中厚モデルがもてはやされるようになっても、【プリンス グラファイト】の「薄ラケスタイル」を愛用する層は消えません。

独特のしなり感。
それを安定させるクロスバー。
ボールがくっつく感覚。
自分のパワーを素直に打球結果へ反映してくれる安心感。

【プリンス グラファイト】は、これらの感覚を守ったまま、常に進化を続けてきました。今では最新の素材コンセプトを呑み込んで【プリンス ファントムグラファイト】と名称を刷新しています。

他社ブランドが「新素材」採用で躍起になっている時代でも、プリンスは「構造のプリンス」を誇りとし、つねに画期的な構造を追求してきました。「ラージサイズ」「ロングボディ」「MORE」「O3」「X」と、すべてが「世界初」。まさに「構造のパイオニア」です。

それが「テキストリーム」という超先進的カーボン構造を手に入れてから、プリンスは「構造+素材」という2大武器を手にします。新素材が新構造開発を可能とさせ、新構造が新素材を活かすのです。さらに「テキストリーム×トワロン」というハイブリッド構造カーボンによって、プリンスラケットは、強靭な「しなりバネ」を獲得します。

「しなってからの戻りが、ボールが打ち出されるタイミングにシンクロする」
どこが特別?と思う方が多いでしょうが、それまでのカーボン素材は、そこまで強く俊敏な「しなり→戻り」を生むことはできませんでした。ですからシンクロ性能は「フレーム厚」が担ってきたのです。

でも「テキストリーム×トワロン」、さらに最新の「テキストリーム×ザイロン」は、この「戻りシンクロ」を薄ラケでも可能にする、奇跡のハイブリッド構造カーボン。もはや【プリンス グラファイト】はレトロな懐古趣味モデルではなく、最新鋭の素材で強化され、『先祖伝来の毛皮を着た、若き狼』となりました。

堂々たる花道を歩むため、「最後に選んだ相棒」
〜 伊藤竜馬プロを全日本ベスト4へ導く 〜

伊藤竜馬:1988年5月18日生まれ……
それは【プリンス グラファイト】の4代目が誕生した年で、1本ストライプから細い4本ストリームとなったバージョン。このモデルが日本でもっとも多くの売上記録を持つ。
その後、6代の継承モデルが生まれ、10代目が、この【ファントムグラファイト テキストリーム×ザイロン】となって、伊藤竜馬選手の右手に握られることとなりました。

36歳の伊藤竜馬選手は、2006年に18歳でプロに転向。これまでの人生の半分を、日本男子テニスの第一線で活躍し、全日本選手権には2度の優勝。グランドスラム大会のすべてで本戦出場して、「あのワウリンカに勝った唯一の日本人」として、デビスカップ日本代表でも活躍してきました。

彼は、なぜ【ファントムグラファイト テキストリーム×ザイロン】を選んだのでしょう?
もっとパワーのある【ツアー】や【ビースト】のほうが勝機を引き寄せることができたんじゃないでしょうか?

プロ選手がもっとも大切にするのは「自分の感覚」です。我々、一般凡人プレイヤーは、使うラケットの性能によって、2〜3球目からは、ベースラインンの内側に落ちるように「打ってしまいます」。つまり、ラケットによって自分の打ち方や力加減を変えてしまうわけですが、プロは「自分は変わらない」で、それにマッチするラケットを探します。

ラケットを替えるときに彼らが求めるのは「自分の感覚を変えずに打てて、結果にプラスアルファが生まれること」。伊藤竜馬選手の場合、それが「追い込まれてからの切り返し……逆襲力」でした。これに貢献する【プリンス グラファイト】の「107平方インチ」という大きさは、まさにプリンスラケットの原点じゃないですか!

球持ちの感覚は、これまで使ってきたフィーリングをそのままに、同じパワーで振り切れることが条件。そのうえで、追い込まれても打ち負けずに切り返すことができる瞬発パワーというメリットが、伊藤竜馬選手に【ファントムグラファイト テキストリーム×ザイロン】を選ばせたのだと思います。

……同じように願うプレイヤーは、たくさんいるでしょう。
ぜひ【ファントムグラファイト テキストリーム×ザイロン】を試してみてください。
もはや昔の【プリグラ】ではありません。姿形は同じであっても【テキストリーム×ザイロン】を得た【プリグラ】は、守備特性を維持・拡張しながら、「逆襲の牙」という攻撃性を備えたことを感じることと思います。

松尾高司(KAI project)

text by 松尾高司(KAI project)

1960年生まれ。『テニスジャーナル』で26年間、主にテニス道具の記事を担当。 試打したラケット2000本以上、試し履きしたシューズ数百足。おそらく世界で唯一のテニス道具専門のライター&プランナー