砂防神【スナガード】降臨!足首装着ベルボトムは、砂入り人工芝プレイヤーの悩みをついに解決。

砂入り人工芝誕生期からの「悩み」は、回避不能と言われてきた
〜 シューズ側からのアプローチ、苦難の歴史 〜

1980年代、世界的なテニス大ブームは日本にも到来し、若者たちの多くがラケットを持ち、コートへと向かいました。当時の日本ではクレーコートが主流。それまで田畑だった土地がテニスコートにされ、あちこちにテニスクラブが誕生し、リゾートでは「全天候コート」と称してハードコートが現われ、土で汚れないオシャレ感、汗をかいても爽やかそうな贅沢感を演出したものです。

’80年代中盤には、日本に「砂入り人工芝コート」が生まれ、多少に雨でもプレイできる便利さや、メンテナンスの簡易さ、運用費用の軽減などの理由から、日本全国へ砂入り人工芝の波紋が広がりました。一部では「日本人選手が世界へ羽ばたけないのは人工芝のせいであり、その存在が弊害である」と説く動きもありますが、日本のテニス人口を支える年配のテニスプレイヤーたちは「砂入り人工芝は足腰への負担が少なく、雨の後でも早くプレイ再開できる」として、いまや日本テニス界には必須サーフェスであり、その比率は「約50%」となっています。

テニスシューズ側でも、それぞれのコートサーフェスに問題点を抱えていました。クレーコートでは「アウトソール溝の目詰まり・土埃による汚れ」。ハードコートでは「ソールが摩耗しやすい・着地衝撃が大きい」。そして砂入り人工芝では、それらの問題点がかなりクリアされてはいますが、「砂粒がシューズの中に入ってイライラする」という「弊害」が存在し続けています。

とくに日本におけるミッドカット王国時代から、世界基準であるローカットへ移行した時期には、そうした苦情が多くなり、日本のテニスシューズ企画開発者たちは、なんとかならんものかと悩んで、いろんな方法を試しました。足をすっぽり包む「インナーソックタイプ」は、足にフィットする感覚が強いうえに、シューレースやシュータンの隙間から砂が入るのを防ぐ……だろうとされましたが、問題の解消にまでは至らなかったのです。

なぜならっ!
砂がシューズの中に飛び込むのは、足の前面からではなく、「足首とシューズの履き口の隙間から飛び込む」からなんです。雨のとき、ズボンの後ろが泥はね(今どきは泥道は少ないですけど)で汚れるのと同じ原理で、踵の動きがサーフェスの砂を跳ね上げ、それが踵とシューズの隙間に落ちるんですね。

この現象を解消するまで、シューズ開発者たちは40年間も悩み続けました……というか、諦めちゃってました。そこに救いの神として舞い降りたのが【スナガード】! なんだか「虫除け対策グッズ」みたいにダイレクトなネーミングです。

それは、シューズ側でもなく、ソックス側でもない、「アパレルアクセサリー」として登場した「砂防の神」だったのです。

発想の転換が、不可能を可能にして誕生【スナガード】
〜 こんなに簡単に、砂の悩みが解消 〜

この姿、ベテランプレイヤーの方はちょっと懐かしいスタイルと思いませんか?
1960年代のアメリカに、既成の社会体制や価値観をを是とせず、脱社会的行動をとった若者たちが注目を浴びた「ヒッピー」は、60年代後半にはその風俗とともに世界中に広まりました。

センター分けにした無造作な長髪にヘアバンド。丸レンズのサングラスに口髭を象徴的な容貌とし、サイケデリック柄のシャツと、裾が広がったジーンズを履いて、ギターを弾く姿が、「ヒッピースタイル」。反体制的な自由と反逆をイメージし、わざと農作業着だったジーンズを履いたのです。

戦後20年くらいの厳格さが残る日本社会では、彼らを「社会からはみ出した若者」と見なし、そのジーンズの形から「ラッパズボン」と呼びました。その起源は「ヨーロッパ諸国の大工職人や、アメリカ水兵のズボン」で、その後、フランス語の「パンツ」を意味する「パンタロン」と呼ばれるようになって、’70年代の日本の若者はみな、これを履いたものです。

一時はほぼ完全に姿を消しますが、近年では「ベルボトム」「ブーツカット」としてスタイル復権し、総称して「フレア」と呼ばれたりもします。

その「フレア部分」だけを切り取って、テニスシューズの履き口に「スポッ」と被せるように装着するのが【スナガード】。扇の扇面のような布を「巻きスカート」のように足首に巻き付けます。こうするとフレアがシューズの履き口を完全に隠してくれるため、踵に跳ね上がった砂が履き口から侵入することは、ほぼなくなるのです。

最初に【スナガード】を単体で見たときは「う〜む……なんとも不格好な」と思ってしまいましたが、装着してプレイしているのを見ると、1分もしないうちに見慣れてしまいます。フレアがひらめいて邪魔くさく感じることもなく、シューズに馴染んでいる感じ。

それはたぶん、筆者がかなりのオッサンで、パンタロン・ベルボトムというスタイルを見慣れていたせいかもしれません。さらに、1967年に放送された『キャプテンウルトラ』という特撮ドラマに登場した、地球侵略を企む「バンデル星人」の姿が、足や手、頭の形までもフレア型だったため、【スナガード】を初めて見たとき「あっ、バンデル星人!」と懐かしく思ったのかもしれません。

装着は「巻きスカートの要領で」行ないます(男性には不親切な説明ですみません)。素材はナイロン90%+ポリウレタン10%で、多少の伸縮性があり、シューズ履き口上部に自然にフィットします。「UVケア・撥水加工」されているため、日焼け防止や、突然の雨でも、ソックスが濡れてしまうことがありませんし、クレーコートでプレイするとかならず汚れるソックスの履き口もきれいなままです。
こうなると「砂」だけでなく「いろんなガード」ですね。

カラーは、ネイビー・グレー・ブラックの3種類ありますから、だいたいのシューズやボトムに違和感なくマッチするでしょう。

問題はサイズなんです。
フリー、ただし「足首周り 24cm以下」となっていますけど、体格のいい男性の足首には、けっこうキツいかと思います。

このアイテムは、男女を問わず役に立つものですし、最初は「なんだかなぁ〜」と思っているお父さんも、そのうち見慣れてきます。なんといっても「プレイ後にシューズに入った砂を排除する」作業が、ほとんど必要ないんですから、きっと使いたくなるはずです!

足首がちょっと太いお父さんのために、プリンスさん……どうかもうちょっと大きなサイズも展開していただけないでしょうか? オジサンだって、砂はイヤだもんね!

松尾高司(KAI project)

text by 松尾高司(KAI project)

1960年生まれ。『テニスジャーナル』で26年間、主にテニス道具の記事を担当。 試打したラケット2000本以上、試し履きしたシューズ数百足。おそらく世界で唯一のテニス道具専門のライター&プランナー