地味なの? 派手なの? エネルギー漏出を防ぎ、肝心な瞬間にビシッと決まる。勝利のために造られた新【Z】は『履くサプリメント』だった!

こ、これが本当にハイエンドモデル? 超地味デザインの新【Z】!
〜 「強さ=派手」ではない「質実剛健」「質素倹約」 〜

New TourPro Z

「あなたはテニスシューズを選ぶとき、何を重視して選びますか?」という調査をすると、多くの場合、だいたい次のような結果が出ます。
 1位:デザイン
 2位:価格
 3位:軽さ
 4位:フィット感
 5位:グリップ性能
 6位:ホールド感
優れたテニスシューズを作ろうと日々研鑽しているメーカーにとっては残念な結果のように思えますが、おおまか3位までが大半を占めるのが現実です。

1位の「デザイン」ですが、一般的に「どんなデザインか」によって、だいたい「どのクラス向けか?」を想像できます。初級者向けのエントリーモデルは、とてもシンプルなデザインです。また中級ベテランプレーヤー向けモデルもシンプルではありますが、どこかにちょっとだけ特徴的なデザインが盛り込まれます。

そして競技レベル向けモデルの場合、シューズデザイナーは、どこか「強さ」を匂わせるデザインに仕上げたくなりますね。シンプルでも、「強いイメージ」を盛り込むもので、プレーヤーもそれを期待しているもの。

ところが、そんな「常識」をひっくり返してしまったのがプリンスの新作【TOUR PRO Z】です。初めてこれを見た筆者は「いやいや、これって製作中期段階のスタイルサンプルじゃないの?」って思っちゃったのですが、「完成品です」って……。
まぁ、ハイエンドモデルは派手なもの……と勝手に思い込んでいただけすけど、そう思っているプレーヤーは少なくないはず。いわば「無言の常識」みたいなものですよ。

新しい【TOUR PRO Z】は、「純白キャンバス」と「漆黒塗りつぶし」みたいです。ショップに並ぶと「できるだけ地味なのを好むオジサン向けモデル」に思われちゃいませんか? パッと見、これがプリンスのハイエンドモデル【Z】だとは誰も気付かないんじゃない? 【Z】って「究極」って意味だろうに、これでは【M】か【N】くらいかな……。

ところがひっくり返すと、まぁ「ド派手」!(ひっくり返さなくてもチラチラ見えているんだけどね)
ホワイトアッパーのソールは「白とブルーとピンクのマダラ」、ブラックアッパーは「黒とブルーとピンクのマダラ」。瞬間的にイメージしたのは『錦鯉』です。プリンス的には「マーブル」、設計的には「マルチカラー」、デザイン的には「マーブル柄」ってことになるんだけど、ホワイトでは水面に絵の具を流して写し取った墨流し的な……、ブラックは…う〜ん…三毛猫的な(笑)

直感的に思ったのは、江戸時代の三大改革の際に出された「倹約令」。派手な着物を着ることが禁じられ、我慢ならない道楽者が「表地は地味な色の無柄でも、裏地に派手な色柄を使い、それを『粋だろ』と自慢した」という話。今の世間がこんなだから……というわけじゃないでしょうが、あまりに純白、とことん漆黒。それだけに足裏の「マーブル柄」が目立つこと!

プリンスは「大胆な勝負」に出たね!
履く人には高性能をアピールするために、わざと「色デザインを排除しちゃった」。
競技者向けハイエンドモデルを履いていると悟らせず、対戦相手を油断させるつもりかっ?
ホワイトには純白ソックス、ブラックにはどうしたって「黒いソックス」を履きたくなる。ラインなんかあってはならない……真っ黒ソックス。そうすると、足全体が真っ黒で、ソールのド派手なマーブル柄が、なんとまぁ目立つこと!

競技者ならば誰でも覚えがある「あのポイントさえ取れていれば……」
〜 「ソールがスウィングを覚醒させる」って……マジか !? 〜

PMF SOLE

さて、ここからはちょっと真面目な勉強をしましょう。
世間にはさまざまなサプリメントが溢れています。とくにスポーツサプリと呼ばれるものには、クエン酸などのように、体内でエネルギー変換を助ける触媒的な役割を果たして「エネルギー効率を向上させるもの」。また汗といっしょに流れ出てしまう必須成分を補って、体内の機能を正常化させるもの。さらにはエネルギーの元となる糖分を効率よく血管内に補給してエネルギー燃焼を途切れさせないもの。いろんなサプリメントがあります。

【TOUR PRO Z】の主戦力である『PMF SOLE』。まさに「テニス足のサプリメント」で、総合的に表現すると「スイングパワーの発生源である脚の動きを理想的に制御して、身体全体のエネルギー活用効率を高める」ということになるのですが、具体的に起こっているのは「ハムストリングのパワーを存分に発揮させる」ことでした。

足には「曲がっていいところ」と「曲がってはいけないところ」があり、ほぼすべての一般的なアスレティックシューズでは、足の曲がり方に合わせて「シューズ側も曲がるように」作られています。それは「足指の付け根あたり」に設けられ「フレックスポイント」と呼ばれます。もちろん【TOUR PRO Z】でも、急な蹴り出しのために足指の付け根も適度に曲がるようにできているのですが、『PMF SOLE』は、つま先よりもずっと後ろ側の「土踏まずの前側あたり」を最大に曲がりやすいフレックスポイントと設定しています。普通のテニスシューズの場合、ここで曲がることは、まずないかと。

何をしたいのか? というと、ここにメインのフレックスポイントを移動させることで、身体は前に倒れにくくなります。そうすると上半身は直立気味になって「回旋しやすく」なります。さらにハムストリング(太腿の後ろ側)が伸ばされずにエネルギーを蓄えるため、次の動作に向けてもっとも機能しやすい準備状態を保ちながら、「対幹を安定」させるのです。

では、そうなると具体的に何がいいのか?
1 上半身が起こされて、速いテイクバックが可能になり、相手打球に対する準備が速くなる(早い準備は、次の打球の選択肢を広げる戦略的メリット)
2 ハムストリングに余裕ができ、上半身も立って回旋させやすくなり、スウィング速度が向上する(打球速度への加速化・スピン量の増加)
3 全身での運動連鎖が効率化してハイパワーが出ると同時に消費エネルギーを節約し、腕だけで打ってしまう「手打ち」を抑制する(腕や肩への負担減でケガ防止に効果がある)

トッププレーヤーの多く(極端なトップスピナーは除いて)が、できるだけ上半身を立てた状態でスウィングしています。こうすることで体幹は安定して回旋しやすくなります。

体幹の安定には「インナーマッスル強化だ!」と叫ばれますが、優れたアスリートほど「人体で4番めに大きな筋肉」であるハムストリングを効率的に活用していて、それを導いてくれる『PMF SOLE』は、メカニカル・サプリメントと言うことができるでしょう。これは「体験しないとわからない」かもしれません。でも実際に試してみたとき「あれっ、なんだか身体が動きやすいかも……」と感じるはずです。

【TOUR PRO Z】を企画担当した柿本往岐氏が「ソールだけ極端に目立つようにした」のか、なんだかわかるような気がします。ソールを感じてほしかったんですね……。

シンプルに見えるけど、集中的補強が充実。「足のサプリメント」を完成させる
〜 シューズの中で足がズレないから蹴りエネルギーを完全燃焼! 〜

New TourPro Z

テニスシューズは、「快適さ」と「パワー効率」の狭間を漂っています。正直な話、「楽で快適な本格競技モデル」はほとんどないと言っていいでしょう。快適さとは「柔らかく優しい感触」「軽さ」「ゆったり感」などでしょうが、本格競技モデルは「硬めのガッチリ感」「タイトな足入れ」、だから「それなりの重さ」になってしまいます。

本格競技モデルで重視されるのは「激しいフットワークを支える堅牢さ」「足との一体感」「蹴りパワーを確実にサーフェスに伝えるシステム」です。すべて「快適な」とは相反するものですが、勝つためにはそれが必要なのです。

キーワードは『反エネルギーロス』、言い換えれば「脚パワーの反映効率」です。
たとえば、ガス器具を使用していて酸素不足になると、正常な燃焼が完了せず、一酸化炭素等が発生する状態を不完全燃焼といいます。不完全燃焼はエネルギー源のすべてを使い切らずに流出させて、本来発揮できるはずのパワーを使わずに捨ててしまうこと。もったいないですよね。

そんな「不完全燃焼」がテニスシューズでも起きます。踏み込んだときにシューズの中で足がズレたり、フワフワしたクッション感でパワーの「リターン効率」が悪くなったり。踵が不安定になったりすると、せっかくの踏み付けパワーを無駄に流出させてしまうだけでなく、危険でもあります。

高反発系ラケットフレームが「なぜハイエナジーか?」わかりますか?
フレームが厚いことで、しなりを小さく抑え、しなりによるパワーロスを極力抑えて打球へ戻してやるからです。それと同じように「パワーを逃がさないで使い切る」ロジックが、プリンスシューズの競技モデルにも取り入れられています。

【TOUR PRO Z】は、ホワイトアッパーは「雪に覆われたように」、ブラックアッパーは「闇に包まれたように」すべて隠されていますけど、バトル用モデルとして、充実した機能が秘められているのです。

まず前足部アッパーには、「Internal Forefoot Bands」が甲周りのメッシュ内側に潜み、シューレースと直結して前足部にしっかり密着フィットします。また踵部を包んで支えるヒールカウンター「3D Stabilizer III」は大型で堅牢、踵をガッチリくわえこみます。

前足部には、アッパーの外側からつま先を掴むようにホールドする「Internal Stability & Durability Crip」が、ソールから巻き上げるように包み込んでホールドし、横への蹴り出しパワーを逃がさずに、確実にサーフェスへ伝達するのです。

またメイン屈曲位置のすぐ後ろには定評のある「Double Shank」を内蔵して、捩れを制御して安定感を高め、またここに硬いシャンクを配置することで、明確なフレックスポイントを生み出すことができます。

踵ソールには衝撃緩和材の「Impact Catcher」が着地のダメージを和らげつつ、前足部では高反発材の「Forward Assist Insert」が、蹴り出しパワーを爆発させるという仕掛け。

実戦では、ほんのわずかな差が勝敗を分けることがあります。消費エネルギーを節約し、自分のパワーを完全燃焼させるサプリメント機能を隠し持った戦略的なバトルシューズ【TOUR PRO Z】白と黒を、あなたの勝利のために使ってみませんか?

松尾高司(KAI project)

text by 松尾高司(KAI project)

1960年生まれ。『テニスジャーナル』で26年間、主にテニス道具の記事を担当。 試打したラケット2000本以上、試し履きしたシューズ数百足。おそらく世界で唯一のテニス道具専門のライター&プランナー