えっ!? 日本のプリンスは海外のと違うって…… マジですか? 日本人の繊細さにフィットさせるために先進採用。全世界プリンスの最先端と出会える我々はラッキー!

気になるタイトルの説明をする前に……出たぞprince【新野獣】!
〜 疲れない【BEAST】。ついに、テ・ナ・ズ・ケ・タ 〜

プリンスファンの方ならば、新製品【BEAST】が発売されていることは、もうすでにご存知かと思います。ただ「新しいの……買おうかな……どうしようかな?」と悩んでいる方がいらっしゃったら、ひと言……
『買いです!』

シブ赤に輝く【野獣】を、自分の意のままに操って「テナズケて」きたユーザーのみなさんに言いたいのは、
新【BEAST】の野獣性はそのままだけど、猛獣使いにとっては「テナズケ」るための苦労が減った……相手だけに噛み付く猛獣になってくれた……ということです。

細かい話は後にするとして、どう変わったかを表わす言葉が、テスターたちの口からこぼれてきます。
「長時間試打しても、後半になって疲れることがない」
「マイルドで飛ぶようになった……っていうか楽に飛んでくれる気がする」
なんだかおとなしくなっちゃったのねと思うかもしれませんが、いやいや荒ぶる野獣の牙はそのままです。でもきっと『テ・ナ・ズ・ケ・タ』を実感できる仕上がりだと思いますよ!

【P.V.S.】or【DB】……「選べる」2種類の振動対策を取り入れた新【BEAST】
〜 復活した【DB】もじつは最先端エラストマー仕様 〜

New BEAST

プリンスというブランドの魅力は「選択肢」にあります。たとえば【O3】は、海外ではわずかしか展開されていないのに、日本では【BEAST】【TOUR】【PHANTOM】に【NORMAL】&【O3】がラインナップされています。かつて世界的にアピールした【O3】には、まだ多くのファンが残っていて、その人たちを裏切らずに提供し続ける誠意が日本のプリンスにはあると感じます。

同モデルにフェイス面積やウェイトの選択肢。とくに【TOUR】や【BEAST】では、モデル名の中に重量数値を組み込んでいて、これは仕上がり精度の高さを物語ります。1モデルに幅広いウェイトのバラツキがあるモデルでは、2本同時購入する場合など、全在庫を店頭で計測しなければならないこともあるのに、プリンスでは多少の幅はあるにしても、これだけ堂々とウェイトを謳えるということは、正確な仕上がりが実現しているからに他なりません。

もっと驚かされるのは、「スウィングウェィト」をカタログに記載する、唯一のブランドであることです。他の多くのブランドでは「絶対に」やりません……というか、できません。ウェイトだけでも大きなバラツキがあって、スウィングウェィトなんかバラバラ過ぎて、カタログに載せちゃったりしたら大事になるんです。それなのにプリンスは謳ってしまう……これって、そうとうな自信がなければできないことですよ。

おっと、話を「選択肢」に戻しましょう。人気モデルである【BEAST】は、100平方インチがメインですが(【O3104】が1機種)、【BEAST 100】を中心に、【BEAST DB 100】【BEAST O3 100】が脇を固め、それぞれに「300g」「280g」スペックが設定され、全6+1アイテムが勢揃いします。【BEAST】という魅力あるモデルを、個人のパワー、スタイル、好みによって選ぶことができるという親切さ。これがプリンスの「選択肢の魅力」です。

そして今回の大注目スペックは「振動対策」です。まず中心となる【BEAST 100】には『P.V.S.』(Purify Vibration System)と名付けられた素材が、シャフト下部〜グリップ全体のカーボン積層に組み込まれています。

『purify』は「浄化する」「除去する」「清める」などの意味ですから、『振動浄化装置』ということになりますね。じつはこの素材、驚くほど高価な高性能エラストマー素材で、プリンスカタログの説明書きによると「打球時の衝撃と不快な振動をふるいにかけて、心地よい打球情報のみを手に伝える」ということです。筆者としては「ふるいにかけて……」という表現をとても気に入っています。

えっ? 「いまさらそんな説明、もう聞き飽きたよ」って?
う〜ん、たしかにそうですよねぇ。でもね、『P.V.S.』の搭載・非搭載の両方を試してもらっている試打会で、「明らかに違う!」と評価されているのです。テスターが口を揃えて言うのは「プレーが終わってみてわかるけど、疲れが溜まっていないことを実感する」でした。

インパクトの衝撃や振動は、「打球情報」として必要なものです。もしもすべての衝撃と振動を取り除いてしまったら、ボールがフェイスのどこに当たったか? どのくらいスピンがかかっていそうか? どれだけのパワーを与えられているか? など、まるで感じ取ることができません。これは「麻酔注射を打たれた状態」と同じです。痛さも冷たさも何も感じない……。過度な振動抑制は、緻密な打球コントロールを邪魔します。

ですからテニスラケットの理想は「必要な情報だけを確実に残すこと」です。これに絶対値はないので、どれだけそれに近付いているかという「感覚的評価」となるわけですが、『P.V.S.』搭載には「打球が楽に感じ、疲労の蓄積が軽減された」という具体的な評価があります。これはとくに競技レベルプレーヤーにとって、ありがたい機能です。世界トップレベルのプレーヤーでも、疲労によってパフォーマンスやショット精度の低下からは逃れられません。その原因が軽減されるということは「勝利へ近付く」ということで、競技者にとって大きなメリットとなるわけです。

そんな『P.V.S.』と並んで、同時発表されたのが『DB』=Double Bridge搭載モデル。これにはパトリック・ラフターの愛用モデルというイメージが、いまだに強いですね。プリンスがなぜ「ちょっと古くさく感じる『DB』」を復活搭載したかについて、企画開発担当の相馬安紀氏に伺いました。

—— 今回、あえて『DB』を復活させてラインナップを増やしたいきさつについて教えていただけますか?

相馬氏:多くの方から話を聴くと、上級レベルのみなさんは『球乗りが長い感覚が好き』という傾向があり、前作で搭載した『A.T.S.』の効果によって安定性も飛びも向上したんですが、少し硬いと感じられる方もいたようでした。ならば縦糸センター6本が長く、ホールド感が高い『DB』も作ろうというのがきっかけです。

—— 『ダブルブリッジ』部分の構成は、昔のままですか?

ダブルブリッジ

相馬氏:いいえ、現代版スペックになっています。ダブルブリッジにすることによって、ブリッジ全体の強度は非常に高くなりますが、その中に挟まれる素材は、以前のシリコーン樹脂から、衝撃緩和性が非常に高い高性能エラストマーにスペックアップしています。このエラストマーは、縦糸6本とフレームの両方に接するため、ストリングの振動を抑制するのと同時に、フレームの振動も緩和する効果があります。

—— 近年では「柔らかい打感」と謳いながらも、実際にはフレーム自体がさらに硬くなる傾向が強いですが、【BEAST】も前作よりも硬くなっているんですか?

相馬氏:カーボンのレイアップ調整などはしますが、数値的にはまったく以前のままです。我々は、フレームを必要以上に硬くすることよりも、それはいじらずに別の対策による性能向上を目指して開発するように努めています。

筆者としては、1モデルに対して7アイテムというラインナップは、かなり思い切ったことをしたものだと感じています。でも逆に、プリンスはそれだけ「ユーザー満足度を重視」するブランドなのだと深く感じ入ります。

じつは「Only Japan」で装備されていた贅沢仕様機能群「Japan Special」!
〜 P.V.S.搭載は日本が最先端、パラレルホールも海外モデルは非搭載 〜

P.V.S.

そろそろ謎めいたタイトルの種明かしをしなければなりませんね。この事実を明らかにすることを、もしかするとプリンスブランドは喜ばないかもしれません。でも筆者としては、みなさんに知っておいてもらいたいと思います。

プリンスは、アメリカ ニュージャージー州に生まれた「外国ブランド」であり、そこに価値を感じている方もいるかと思いますが、ユーザーにとっては「そんなことはどうでもいいこと」じゃないでしょうか。真剣にテニス道具選びをする人が大切に思うのは「自分にとっていかに使いやすい道具であり、メリットを与えてくれるか?」です。

ですからあえて言いますが、日本で販売されているプリンスラケットは、海外で販売されているのを輸入しただけのものではありません。いや、海外で販売されているラケットの先の先を突き進む『最先端プリンス』なのです。たとえばアメリカの某大手WEB販売サイトを見ると、もうまるで違うラインナップで、日本ですでにフル搭載完了している『TeXtreme』搭載モデルはわずか。その先に進んだ『TeXtreme×Twaron』に至っては、使用されているという記載を発見できず、捩れ剛性を高めてパワーアップを図る『A.T.S.』も搭載シリーズが限られています。

つまり、日本のプリンスはどうにも贅沢で、海外プリンスの数年先を走っている!ということです。当然、海外モデルに『P.V.S.』搭載モデルはなく、『DB』も存在しません。【BEAST】に搭載される「ストリングの機能域を拡大する」ための『Parallel Hole』を搭載する海外モデルもありません。これらはすべて「繊細な日本人プレーヤーのための日本独自スペックモデル」なのです。

『グローブライド』はプリンスの輸入代理企業であると同時に、もはやメーカーでもあるわけです。企画開発者が生産工場を訪れて開発に関するミーティングをし、交渉をして独自開発してテストし、日本人に最適のスペックを選び抜いて、総合的に磨き上げます。その結果、日本で発売されるプリンスラケットは、海外モデルのはるか上を行く、先鋭的プリンスであるということを、ぜひみなさんに知っていただきたかったのです。

松尾高司(KAI project)

text by 松尾高司(KAI project)

1960年生まれ。『テニスジャーナル』で26年間、主にテニス道具の記事を担当。 試打したラケット2000本以上、試し履きしたシューズ数百足。おそらく世界で唯一のテニス道具専門のライター&プランナー