Prince Monthly Column

2019/07/11

もはやスライスは守りのショットじゃない!
常識破りの【Prince X】にツアーバージョンが登場。スピンもスゴいが、「キラースライス」は未体験の武器になる!

「ゲキスピ」「スゴスラ」って……ナニ?
〜 ようするに「なんかスゲェー」ってことね 〜

プリンスの歴史は「開拓」「挑戦」の歴史。プリンスラケットの始まりであるデカラケが、それまでのテニス感さえ変えてしまったことは、これまで何度も話してきました。今、それに近いことが起ころうとしています。

昨年発表された【Prince X】のキャッチコピーが『ニュー・スタンダード』。それはかつてデカラケが「オバケ」だ「ウチワ」だと揶揄されながらも、数年後にはトッププロさえ使う武器になったことを回顧させるワードです。

シャフトを捩る……なんてことは、常識人ならば考えません。しかし、「非常識さ」が、現代のテニスラケットを育てたというのも事実です。希求し、推理し、検証し、磨き上げるという作業によって、21世紀初の非常識ラケット、いや新常識ラケット【Prince X】は誕生しました。

これまでいろんなメーカーが、ちょっとしたアイディアを組み込んだニュータイプや、「冗談でしょ?」と思わせるエポックメイクを打ち出してきましたが、翌年には見事に消えてしまっているケースが目立ちました……というか、名残があるものは、ほんのわずかです。

巨大な費用を投じて大々的な宣伝をする→ドッカーンと出した→ダメだったらさっさと手を引く……。それをいいなと思って購入し、気に入っていたのに、あっという間にハシゴを外されてしまってガッカリしたプレーヤーがどれほどいたことか。でもプリンスは、自分たちが開発・投入してきたものに責任を持ち、進化はさせても、簡単に放り出すようなことはしません。【O3】だって、しっかり提供し続けているじゃないですか!

ぶっちゃけ、【Prince X】は、非常に大きな賭けだったと思います。見かけ上、これほど違和感があるものが、はたして受け容れられるのか?

必要とするプレーヤー、わかってもらえるプレーヤーから、ジワジワと浸透させていく。それが現代のプリンスの考え方です。良いもの・価値あるものは、かならず理解を得て、生き残っていく……それがプリンスの信条だと感じます。

そんなプリンスが、大胆なキャッチフレーズを発表しました。「ゲキスピ」「スゴスラ」って、真面目なプリンスっぽくない派手な打ち出しです。つまりは「激しいスピン」「凄いスライス」だよってことを言いたいところ、どこでも使う凡庸さではなく、ハッシュタグに加えやすいように表現したのでしょう。

それが【X TOUR】シリーズを象徴するフレーズです。これまでの【Prince X】も、バックハンドだけに注目して増強できるところ・右利き用と左利き用があるってことなど「スゴい」と感じました。反面、本当にこれでポシャらないのか? 大丈夫なのか? とも感じていました。

答は【X TOUR】投入という事実が示してくれています。【Prince X】を高く評価してくれるプレーヤーが多く、もっと広がりを求める声が、プロでも使えるスゲェーやつ、【X TOUR】というラケットを呼び込んだのです。

伝説の「カミソリスライス」が今ここに蘇る
〜 敵を慌てさせる「キラースライス」を打てるぞ 〜

キラースライスを打て

今回から【Prince X】の【Prince】がとれて、【X TOUR】というニックネームとなりました。もう【X】といえばプリンスだという土壌ができたということでしょう。【Prince X】を試打したのは「バックハンドに悩みを抱えるプレーヤー」だけではありませんでした。アスリートプレーヤーもコーチも、数多くの方が新感覚を試し、そこから飛び出した言葉が「これって僕らには飛びすぎちゃうけど、バックハンドのメリットは嬉しいよ。もう少し飛びを抑えたのがあれば、僕らも使えるんだけどなぁ〜。いや、使いたいなぁ〜!」というもの。

筆者が【Prince X】で感じていたのが「これでスライスを打つと、びっくりするほどシューッと伸びていく」ということでした。楽に打ち返しただけなのに、明らかにこれまでと違うスライスショットが返っていく。しっかりしたスライスを打てるプレーヤーならば、これってものすごい魅力じゃないの!」と思っていたのです。

その期待どおりにやってくれたのが【X TOUR】です。【X 97 TOUR】はフレーム最大厚が「1.5mm」薄くなって「薄ラケ」部門に入るほどになり、フェイス面積が「97平方インチ」という、いわゆるプロスペックモデル。このやり方は、プリンス【グラファイト110】登場後に【グラファイト90】が加えられたのと酷似しています。

かつてオーストラリアはテニス王国と呼ばれ、チャンピオンたちがしのぎを削り合っていました。現代のようなスピード&パワーで押し切るような時代ではありません。もちろん速さを持ったプレーヤーは強かったですが、配球・組み立て・正確さが勝負のカギでした。

その英雄的なプレーヤーの一人に「ケン・ローズウォール」という伝説の選手がいました。25年間連続トップ10維持。全豪4回、全仏2回、全米2回、グランドスラムでトータル8回も優勝しています。唯一、準優勝で涙を飲んだのが全英ウィンブルドン、なんと20年間で4回も決勝進出しながら、ついに優勝できなかったのです。ただダブルスでは全グランドスラム大会で複数回優勝を果たしていますよ。

彼の正確無比なスライスショットは「カミソリスライス」と呼ばれていました。ローズウォールの話をすると長くなってしまうので割愛しますが、その伝説のスライスは、ボールを削ぎ斬るようなスピードで振り下ろされ、放たれた打球はただ一直線に標的を射抜くようでした。

【X TOUR】は、そんなカミソリスライスを思い起こさせます。とくに、しっかりしたスイングスピードでスライスを打てる【X 97 TOUR】は、スライスを立派な「武器」に仕立ててくれます。やや厚めに当て、それなりの速度を載せた『Xスライス』は、バウンドが低く、相手のラケットの先を『ツンッ』と通り過ぎていきます。

エースを狙えるスライス……、『キラースライス』という呼び名が頭の中を飛び交いました。

やはり注目はプロスペックの『X 97 TOUR』
〜 不得手克服ラケット → 攻撃力増強マシン 〜

X 97 TOUR

1stモデル【Prince X】は、バックハンドを不得意と悩めるプレーヤーのために開発されました。当初はプリンスも「そんな方の助けになれればいい」と、かなり控えめな考え方で、じつは「左利き用」も作らないくらいの初期計画でした。

そんな限られた枠しか考えられてなかったはずが、発売前の試打リポートを重ねていくに従って「これはかなりイケる!」という手応えを得て、「左利き用も出す!」と判断。さらに、発売に際しての試打会などによって、このカテゴリーは十分に存在価値を主張できるという確信を得たのでした。

また、これを試打した競技者たちからの要望によって、さっそく第2弾【X TOUR】が計画されます。「意図しなくてもナチュラルなスピンがかかりやすい」「バックハンドの伸びがいいけど、とくにスライスが素晴らしい」というオリジナルの特徴を、高速スイングスピードで増強できるのか?

つまり「ディフェンスモードからオフェンスモードへの変身」は可能か? をプリンスは検討し、ついにプロスペック【X】を送り出すことに決定しました。スピンがかかりやすいと謳われるモデルはたくさんありますが、2種に大別できます。「スピンがかかりにくい人でも、適度にかかってくれる」というタイプは、元々十分にスピンをかけられるプレーヤーにとっては不満足なケースが多いです。逆に「スピンプレーヤーのスピン量をさらに増加させる」というモデルは、あまりかからない方にとっては、縁もゆかりもない世界。両方を満足させられるラケットは、ほとんどありませんでした。

ところが【X】はストリングパターンでスピンをかけるのではなく、フレームシャフトの反発システムをフォアハンド:バックハンドで差異を設ける機能のため、ナチュラルにも激しくもスピンをかけられるのです。またバックハンドではフラット系&スライス系が増強されます。

それを高速スイングに対応させたのが【X 97 TOUR】で、【Prince X 100】よりもフレーム重量を20g増し、フェイス面積を絞り、パワーレベルを「880 → 820」に抑えています。また【X 100 TOUR】は形状は従来とまったく同じですが、フレーム重量を【Prince X 100】よりも10gだけ増し、パワーレベルを「880 → 870」にしています。とても微妙な変化ですが、こういう要求もあった!ということだと思います。

これを初めて使われる方のほとんどが、フォアのスピンは思いどおりにかけることができることで満足感を得られるでしょう。しかしバックハンドスライスでは、おそらく未体験の感覚を得られるはずです。筆者は「巡航ミサイルのよう……」と感じました。

これは近い将来、プロが使うことになるかも!
〜 かつてデカラケが一般化した状況に似てきた 〜

いまどきプロにスライス強化なんて必要な時代じゃないだろう……と思われる方がいるかもしれませんが、ウィンブルドンを観ていても、バックハンドスライスでつなぐ戦い方が多用されていることがわかるはずです。でもやはり、まだまだ守備的なショットであり、かつてもステフィ・グラフのように攻撃的なスライスを打つ選手は少ない現状です。

でももし、【X 97 TOUR】を使うプレーヤーがウィンブルドンに出場したら……。

きっとバックハンドスライスが重要な武器となるはずです。とくに試合がもつれて長引いたとき、省力できるスライスに攻撃力があれば、体力的にも戦略的にもメリットがあります。【X】のプロスペック化によって、それが実現できる可能性が、遠くに見えてきました。

キワモノ扱いされた登場時、それをプロが使い始めることで認知されていく様子が浮かびます。まるで1978年、パム・シュライバーが全米決勝に進出したときからテニスラケットの世界が変わった事実が、頭の中にボンヤリ浮かびます。もしかしたら……あるかも。

text by 松尾高司(KAI project)

1960年生まれ。『テニスジャーナル』で26年間、主にテニス道具の記事を担当。
試打したラケット2000本以上、試し履きしたシューズ数百足。おそらく世界で唯一のテニス道具専門のライター&プランナー

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