「伸びて→縮む」がストリングの命!シリコーンコーティングが面全体の伸縮を促し、「飛ばす力」を長持ちさせる。

「伸びて→縮む」がストリングの命!シリコーンコーティングが面全体の伸縮を促し、「飛ばす力」を長持ちさせる。

「猛烈スウィング→爆発パワー」「これってポリなの?」
〜 プリンスストリングに2つの【ファントム】 〜

今回、注目するのは、【PHANTOM PRO】と【PHANTOM TOUCH】という、プリンスのポリエステル系ストリングです。ひとくちにポリエステルといっても、じつは多種多様なポリエステルがあり、複数のポリエステル素材がブレンドされてストリングが作られます。そしてそのブレンドのによって、ストリングとしての性能が各種各様に表現されるのです。

でも変わらないのは、ポリエステル系ストリングは『強烈にインパクトできるプレイヤー向け』であり、ナイロン系とは決定的に違う! ということです。メーカーは「選手が使えるストリングを目指し」、猛烈なスウィングによってボールをパワフルに弾き出すことのできる強靭さと同時に、硬さの違和感を抑えるマイルドさの追求に務めてきました。

【PHANTOM】シリーズについて言えば、カチッとしていて、本物のパワープレイヤーが使ってこそ威力を発揮できる【PHANTOM PRO】と、一般競技プレイヤーが使っても反発パワーがありながら、打球時のマイルド感を感じられる【PHANTOM TOUCH】、ということです。

もっと簡単に言えば、プロレベルの爆発的な強烈さを生むのが【PRO】。
ポリらしいパワーと、ポリらしくないマイルドさが合体したのが【TOUCH】です。

「柔らかい」といっても、あくまでハードヒッター向けのポリエステル
〜 自分にとって本当に必要なポリを選ぶ 〜

この2アイテムは発売から2年を経過していますが、そのおかげで多くの評価を得ることができています。プレイヤーやコーチからは「性能寿命が、これまでのポリエステル系の数倍も長い」「一般的ポリエステル系ならば一週間で急激に飛び性能が低下するが、これは5週間は飛びが維持する」という評価もあります。

とくに【PHANTOM TOUCH】は「ポリエステル系としては打球感がとくにマイルド」なのが特徴。プリンスのポリ系ストリングの中でも、打感の柔らかさとスピン効果で評判の【TOUR XX SPIN】と並ぶ売り上げを記録しているのです。

ただし【PHANTOM TOUCH】が「柔らかい」といっても、ナイロン系のように柔らかいわけではありませんよ。あくまで「ポリエステル系は、ハードヒッターが使ってこそ反発パワーを引き出せる」という概念の範疇にあり、それなりのスウィングレベルを持っているプレイヤーに向けてのギアですから、どうか誤解しないでください。

打感の柔らかさとスピン効果ならば【TOUR XX SPIN】。
反発パワーと性能維持力ならば【PHANTOM TOUCH】という選び分けがポイントで、おまけに【PHANTOM】シリーズには「性能寿命の長さ」という大きなメリットがあります。

絶対不可能と言われていた「ポリエステル」への表面コーティング
〜 スピンのかけやすさと、飛躍的な性能寿命 〜

従来のポリエステル系ストリング(以下:ポリ系)は、「表面がツルツル」という特性のために、滑りやすくするためのコーティングを施すことができませんでした。でもポリ系ストリング自体が「とても硬い」ため、ポリアミド系(以下:ナイロン系)よりも「クロス部での食い込み」がはるかに少なく、横糸と縦糸との滑りがいいんです。そのおかげで「スナップバック効果による、スピンのかかりやすさ」が高く評価されてきました。

しかし【PHANTOM PRO】【PHANTOM TOUCH】では、「ポリエステル系なのにシリコーンコーティング」を可能にする技術が採用されたことによって、さらに「ストリング表面の滑り効果がさらに高くなり、スナップバックによるスピン効果」が増したのです。

ただし、ひとつ覚えておいてほしいのは、「スピンがかかりやすい」というのは「誰が使ってもスピン量が増えるということではない」ということ。縦ストリングの横ズレを発生させることができるスウィング速度とスウィング方向という条件が揃ってこそ、「スピン量増加」の恩恵を受けることができるわけで、ここは誤解しないようにお願いします。

ところでみなさんは、テニスショップに並ぶほとんどのポリ系ストリングのパッケージに『テンション維持性が高い』という「謳い文句」をよく見ますよね。でも、どんな数値が出れば『テンション維持性が高い』と言えるか? という明確な基準があるわけではないんです。

しかし【PHANTOM PRO】【PHANTOM TOUCH】については、多くのユーザーによって「飛びが持続する期間が圧倒的に長い」という現実の評価が残されています。

まず区別しておいていただきたいのは、「テンション維持性」とは静的に計測した数値のことであり、「伸縮の維持性」は動的な現象について語ったことだということです。ストリングがボールを弾き返すのは「動的な力」。言ってみれば、問うべきは「テンション維持性」ではなく、「ストリングの伸縮」!
それこそが、ストリングの「命」なのです。

すべてのストリングは「伸びる」んです。ただそれが「縮むかどうか」が問題です。ポリエステルはナイロンに比べて「伸びにくい」硬い素材なんですが、いったん伸び始めると、「元に戻ろうとする力=縮む力」の低下が早く、「伸縮」の「伸」に、「縮」がついていかなくなります。これが「ポリ系ストリングの寿命の短さ」なんです。

「滑り効果向上 → 性能寿命延長のメリット」の仮説
〜 摩擦抵抗軽減によって「周辺性能が活きる」 〜

ポリ系ストリングに対して「テンション維持性が高い」という謳い文句は、ほとんどすべてのストリングメーカーが使っています。正直言って、その謳い文句に耳を傾けなくなっているんじゃないでしょうか。

しかしながら、【PHANTOM】シリーズほどの「反発維持性の高さ」という事実があると、「それはなぜか?」と考えてしまいます。

まず【PHANTOM】シリーズにおける「ポリエステル分子構造の研究成果」「シリコーンコーティングの実現」という2つの特徴を取り上げた場合、他との性能差に大きく関与するのは「シリコーンコーティング」によるものと感じます。その理由は、次のようなことです。

ストリング表面がとても滑りやすいポリエステル系であっても、「ボールが当たった点を中心に伸縮現象は大きく、周辺へいくに従って伸縮効果は小さく」なります。それは縦糸と横糸との交差点の抵抗が影響するからですが、ポリ系ストリングへのシリコーンコーティング実現は、クロス抵抗を驚くほど少なくすることができ、ストリング面の伸縮エリアを拡大することにつながるでしょう。

それが「周辺までも伸縮性が活きる」ということです。これによって、ストリング面全体の弾力性(面としてのバネ効果)が大きくなるため、打球の飛び性能が向上する……のではないかと思います。

また、「インパクトエリアの滑り抵抗」と「その外側との滑り抵抗」とのギャップがあると、周辺部よりも中央部に伸縮現象が集中してしまうため、とくに中央部の性能寿命が費やされやすくなる……のではないかと推測できます。そうなれば当然、飛び性能は低下します。

しかし【PHANTOM】シリーズのように、ストリング面全体のクロス部抵抗が小さくなると、中央部と周辺部との「伸縮現象の偏り」が減って、ストリング全体としての性能寿命が延びる……のではないかと考えられるわけです。

これは筆者が勝手に想像したことであり、プリンスのオフィシャルな理論付けではないことをご承知ください。あくまで筆者の「妄想」ですので、どうかあしからず。

松尾高司(KAI project)

text by 松尾高司(KAI project)

1960年生まれ。『テニスジャーナル』で26年間、主にテニス道具の記事を担当。 試打したラケット2000本以上、試し履きしたシューズ数百足。おそらく世界で唯一のテニス道具専門のライター&プランナー