プリンス=デカラケの象徴【EMBLEM】シリーズは、快適モデルのド定番。ベテランプレイヤーにとっての絶対領域!

プリンス=デカラケの象徴 【EMBLEM】シリーズは、快適モデルのド定番。ベテランプレイヤーにとっての絶対領域!

競技モデルが「花形」ならば、快適モデルは「バリアフリー」
〜 「快適さ」を具現化したのが【エンブレム】 〜

華々しい国際舞台のプロツアー。そこに登場するトッププレイヤーたちが使うラケットは、いわゆる「競技系モデル」……プリンスで言えば【PHANTOM Series】【PHANTOM GRAPHITE Series】【TOUR Series】といったところで、一般競技系として【BEAST Series】などがラインナップされます。

競技系モデルは、各メーカーにとってフラッグシップモデル。自動車の世界ならば「高級スポーツカー」ですね。なんといっても「派手」です。「激しさ」「速さ」「強さ」といったイメージを纏っていますから、注目を集めやすいですよね。

メーカーが広告宣伝に投資するのも、こうしたカテゴリーのモデルです。昔は多くのテニス専門誌が書店に並び、それぞれに「ラケットの広告」が掲載されていましたが、そこに登場するのは、決まって「競技系モデル」。雑誌広告掲載費というのは、みなさんが想像する以上に高額でしたから、なんでもかんでも広告するというわけにはいきません。

今日、メーカーによる宣伝活動は、おもにネットやSNSの世界へ移行しています。単にブランド認知やイメージの向上を狙うだけでなく、プレイヤーにとって有益な情報を幅広く発信する戦略で、これはユーザーとしても嬉しいですね。

ですから筆者も【EMBLEM Series】のことを書くことができるのです。派手なトップモデルが「花形」ならば、【EMBLEM Series】のような快適・軽量・パワーアシスト系モデルは、一般プレイヤーにとっての「バリアフリー」。しんどい・キツいという印象はなくして、楽しく・楽に・快楽テニス。

昨今のテニスプレイヤーの年齢層別データ推移を見ていると、徐々に高齢化しているのが明らかです。世界的な大テニスブームとなった1980年代、テニスにときめいた若者が、今では60代。でもね、「生涯スポーツ」と言われるテニスですから、みんな長く続けています……っていうか「やめません」。

みんな昔は「薄ラケ」「競技系」を使っていたんです。でもね、どんなプレイヤーでも歳をとるし、パワーや反応が少しずつね……。「まだまだイケる」「認めたくない」って言ったって、すべての人間に「衰え」はやってくるのです。それを受け容れたプレイヤーが、【EMBLEM Series】に目を付け、快楽テニスに耽溺するんですね。

いいじゃないですかっ! テニスは楽しくなくっちゃね。若い頃に、頑張った・戦った・勝利の美酒に酔ったということもあったでしょうが、「黄金のベテランシニア」になった今は、戦いの世界を超越して、テニスを楽しみ、その後にはいつも満足の美酒を、嗜む程度にやればいいんです。

だから【EMBLEM Series】は売れています。

【110】【115】【120】、デカラケのパイオニア魂
〜 プリンスというブランドの原点 〜

現行の【EMBLEM Series】が登場したのが2020年。不安で暗い感じの日々が続く中、目が覚めるような『純白』で登場したのが【EMBLEM 110】と【EMBLEM 120】。ラケットフレームを真っ白に見せるためには、ただ白い塗料を塗っただけではダメなんです。真っ白に輝く「プリンスホワイト」に仕上げるには、かなりの試行錯誤が必要だったはずです。

「白よりも白く」仕上げられた【EMBLEM Series】は、それだけで軽そうな印象があります。その期待を裏切らない【EMBLEM 110】:255g、【EMBLEM 120】:245gという軽量さ。そして「デカい」。

1976年、ハワード・ヘッドは、「テニスは習得するのがむずかしい」「もっと簡単に覚えられて、誰でも楽しくテニスを楽しめるラケットを作ろう」とデカラケを発明しました。その発想から生まれた「110」「オーバーサイズ」は、じつに46年間、プリンスラケットにかならずラインナップされてきた、『プリンスの魂』みたいな存在です。

そしてラケット全体が大きくなってくると、「それ以上に楽なものを」と、スーパーラージサイズというものを送り出します。【THUNDER】や【RIP】というニックネームが印象的ですが、とにかくプリンスは毎年のように、名前を変えていろんなスーパーラージを発売していました。テニス道具専門のジャーナリストとしては「落ち着かない感じ」でしたよ。定着する前に名前が変わっちゃうから、もうどれがどれだかわかんなくなっちゃう。

そしてやっと、落ち着いた感のある【EMBLEM Series】の登場です。「110」「120」「デカラケ」とともに生き抜いてきたプリンスの……まさに『象徴』(Emblem)ですね。いいネーミングです。フェイス面積の世界的トレンドは、レギュラーウッドの「70平方インチ」から「85」→「90→」「95」→「100」、そして近年「98」「97」と小さくなっています。そんな状況において「110」「120」は異質な存在。でもだからこそ生き続け、支持され、ヒットしているのです。

【EMBLEM Series】は、いまや「快適モデルのド定番」!
そんな「絶対エリア」を見た他メーカーが、どんどん参入し始めています。高齢化が進むテニス界で、「軽い・デカい・飛ぶ」高反発系モデルは、これからどんどん求められるようになるでしょう。

そんな動向が、プリンスブランド内部にも見えています。「プレイヤーの悩みを解決する」ところから始まったプリンスラケットが、2018年に「バックハンドが弱めな人をバックアップ」するコンセプトで送り出した【Prince X Series】は、「100平方インチ」中心のラインナップでしたが、2021年、ついに【PRINCE X 115】を発表し、シニアプレイヤーから絶大なる支持を受けています。

フェイス面積は「110」と「120」の中間である「115」で、熱視線が注がれているのは「236g」という超軽量さ。これならば、めっちゃ非力な人でも振れる。「もうテニスをやめようかな……」なんて思う前に、こいつで「もう一花咲かせようか!」と感じさせてくれるスペックです。

「軽い・デカい・飛ぶ」に加えて「バックがよく飛ぶ」のフルサポートモデル。ここ20年以上、テニスラケットに革命的進化が生まれない状況でしたが、【Prince X】の登場は、プリンス得意の「フレーム構造的進化」におけるブレイクスルーです。筆者の友人は、まだまだ元気シニアながら、先日【PRINCE X 115】を購入し、鉛テープでちょっとだけ重くして愛用しています。彼曰く「しんどくなってきたら、鉛テープを剥がせば、長く使い続けられる」と、意気揚々ですよ。

【EMBLEM】も【Prince X】も、もう十分に知名度が確立されちゃいました。
だからプリンスさん……、この名前は変えずに、ずっと使っていきましょうね(笑)

ホワイト基本 〜 ワインレッド 〜 ネイビー ……お好きなエンブレムを!
〜 毎年のカラー追加で「本当に使いたい人」へ届ける 〜

テニスって、1800年代からお洒落なスポーツとして発展しましたから、「ラケットは性能さえ良ければ外観なんてどうでもいい」というプレイヤーは、ほとんどいません。ラケットを買いにショップヘ行けば、どうしてもカラーやデザインを気にします。

バリバリ競技系モデルでは「強そうなイメージ」がウケて、2022年は「真っ黒いコスメティック」が続々登場。そういったイメージに意識が集中するカテゴリーではいいんですが、快適テニス派になればなるほど「自分のイメージ」を重視する傾向が強くなり、デザイン・カラー重視のラケット選びをするようになるみたいです。

つまり「あのラケットがほしいんだけど、色がねぇ……」という感じ。【EMBLEM Series】は、競技系の【TOUR Series】と同じ純白なのに、オジさまたちからは「ちょーっと女性っぽいよな」という声も聞かれました。

それならば! ということで、翌年に【BEAST Series】っぽいワインレッドの限定カラーを発売したところ、オジさまたちをはじめ、「白はオシャレすぎるわ」と言っていたオバさまたちも、待ってましたとばかりにご購入。

2022年には、またまた限定カラーとして、シャフトのブルーからヘッドがネイビーという男子っぽいさわやかさを纏った【EMBLEM】2モデルを発売。これまた人気集中ということで、「コスメティックカラー」の好き嫌いなしに、楽チン快適【EMBLEM】の恩恵を授かることができるようになりました。まぁそれができるのも、純白【EMBLEM】が大ウケしてるからなんですよね〜。

徒然なるままに書いていたら、テクノロジーのことを書くスペースがなくなっちゃいました。「TeXtreme × Twaron」「アンチトルクシステム」や「パラレルホール」といった各テクノロジーについてはWEBサイトで解説を受けてください。ではまた来月に!

松尾高司(KAI project)

text by 松尾高司(KAI project)

1960年生まれ。『テニスジャーナル』で26年間、主にテニス道具の記事を担当。 試打したラケット2000本以上、試し履きしたシューズ数百足。おそらく世界で唯一のテニス道具専門のライター&プランナー