対戦相手がこれを履いていたらヤバいと思え。
白いハイエンドモデル【TOUR PRO Z IV】は「悪魔のZ」!

プリンスの頂点【ツアープロZ】がフルモデルチェンジ
〜ハイエンドモデルゾーンに、新鮮な「ホワイト」で登場〜

TOUR PRO Z 4

プリンスのテニスシューズは、明確にカテゴライズされているために選びやすいところがいい。キッズモデル、エントリー(ベーシック)モデル、ワイドモデル、ライトモデル(パフォーマンス別に2モデル)、そして徹底した競技者用のハイエンドモデル。究極のモデルに与えられた開発コードネームは【Z】。ただそれはあくまで内部的なものであり、かつてのモデル名は【プロホールドツアー】。覚えのある方もいらっしゃることだろう。

プリンス【Z】は進化し続けてきた。振り返ってみれば、【Z】は今日の競技モデルの主流の魁だった。今から10年前、開発コード【Z8】のデビューは衝撃的だった。当時の競技用モデルは「3Eウィズ」が一般的で、それより狭い市販モデルはほとんどなかったが、【Z8】は堂々の「2Eウィズ」で登場し、「狭すぎて辛い」と批判する向きもあったが、筆者の感想は「とうとうやりやがった!」だったのだ。

競技にはそのほうがいいとわかっていながら、どのメーカーも批判を怖れて踏み切れなかったハードルを、「これを履くプレーヤーの勝利のために作った」のがプリンスだった。サイドへ強く踏み込んでも、シューズの中で、足がまったく横ブレしない。その一体化具合は、まるでオーダーメイドのランニングスパイクのようである。

しかし、時代がついてこられなかった。そのため、次に発表された【Z9】は、せっかく振り上げた「最先端2Eウィズ時代への尖兵」という旗印を下ろして、ちょっとだけ楽になってしまった。こんなことをオフィシャルWEBに書くのは御法度かもしれないが、今日の競技モデル事情を見れば、【Z8】での決断は正しかったと理解できる。

ふたたび筆者の頭をガツーンとやられたのが前作【Z10】。ほぼ全体を真っ黒なRPU(ラバーポリウレタン)で覆い、非常に小さなプリンスロゴと、シューレースの「プリンスグリーン」だけが、プリンスのシューズであることを示していた。スリムなアッパーが、足に吸い付くようにフィットする。安定モデルであるにもかかわらず、ゴツさはまったくなくて、このモデルが出たことで、ようやく時代は「最先端2Eウィズ時代」へ突入することになる。

この【Z10】からモデル名に正式に【Z】が加えられ【TOUR PRO Z】となる。究極の地味さから、一気に派手なカラーチェンジを経て、ついに今回のフルモデルチェンジモデル【TOUR PRO Z 4】が世に送り出された。

今度は真っ黒デビューから一転して「ホワイトデビュー」。正しくは「ライトグレー」と、わずかなグレーなのだが、カラーモデルばかりの競技用モデル群にあっては「ほとんど白」であり、かなりの目立ち方をしている。

プリンスデカラケにしても、昨年発表された「シャフトが捩れたラケット【X】」にしても、最初はキワモノ扱いされても、いずれそれがニュースタンダードとして認められるときが来る。パイオニアとしてのプリンスを、真っ当に評価すべきだと筆者は思う。

あなたのフットワークを根本的に変えてみませんか?
〜ハムストリングを有効に使って骨盤を立たせる〜

田中歩武トレーナー

ということで、このニューモデルは開発コード的には【Z11】ということになるはずだが、その開発は、これまでとまるで違うアプローチによって行なわれた。開発担当者が考えたのは「テニスの動作をもっとも合理的に導くシューズ」。誤解を恐れないくらい噛み砕いて言うなら「これを履くことで速く動ける」というシューズである。

そのための技術的テーマに掲げたのは「いかにしてオフバランスを生ませないか」。まだピンと来ないかもしれないが、ようするに「バランスを崩しにくいシューズ」ということだ。いや、もっと積極的に「身体を無駄なく動かす」ことを追求した。

では、何をどうするか? テニス専門誌でもよく取り上げられるように、スイング時「骨盤を傾けず、真っ直ぐにする」ことで、速く動き、速くスイングできることに注目。それじゃあ、どうしたら骨盤が立つのか?

辿り着いたのが「ハムストリング(太腿裏の大きな筋肉)を有効に使う」こと。しかしシューズによって、それをコントロールすることができるのか?

研究の結果、「フレックスポイントの移動」が決め手となった。これまでのシューズの屈曲ポイントは足指関節の位置に合わせて設定されていたが、これだと「身体が前へ倒れがちになって、太腿前面の大腿四頭筋が使われ、骨盤を立てることができない」という。骨盤を立てるには、ハムストリングを使うことが必要だという。このシステムを引き出しために、開発スタッフは、思い切って「屈曲ポイントを踵側へ移動する」ようにセッティングしたのだ。

その効果を指摘したのが「田中歩武トレーナー」。彼は、父:田中洋氏が創立した『Tanaka Physical Program』でフィジカルトレーナーとしてのノウハウを磨き、トッププロのグランドスラム帯同を努めるなど、とくにテニスの動きと身体に精通している人物で、現在では「TPPトレーニングスタジオ代表」である。

その田中トレーナーに開発担当者が協力を求め、アドバイス・評価を依頼したところ、この【TOUR PRO Z 4】が、ハムストリングに効き、骨盤を立たせることに効果的であるという客観的な評価をもらうことができた。開発意図が実を結んだわけである。

これまでのテニスシューズ開発が見てきたのとは違う世界を目指しての開発プロセスは、プリンスシューズを、また一歩先へと進めたのである。

徹底的に追及し尽くした「悪魔のソール」を搭載した
〜悪魔と手を結んで、過去の自分を脱ぎ捨てる〜

ソール部

【TOUR PRO Z 4】のアッパーは、軽量なメッシュと、堅牢なRPU素材との複合による立体成型によってできている。筆者は、初めてのシューズに足を入れるとき、かならず裸足で試させてもらう。もちろん実際にプレーするときはソックスを履くが、裸足で試すことによって足の皮膚がシューズへのフィットを感じやすくなる。

その結果報告……。前作【TOUR PRO Z 3】の新品と履き比べたところ、アッパーの足当たりがマイルドになっている。前作では「(甲被自体はそんなに硬くはないのだが)感触として、薄くて硬い甲被に支えられる感じ」だったのが、新作では「ちょっとだけ厚くて柔らかい甲被に包まれた感触」に変わっている。履き口のパッドも厚く柔らかくなっているため、快適性が向上していることもわかる。

さらに、爪先部のフィット性が変更されている。前作では小指側が狭くてやや窮屈だったが、新作では小指側が広げられて余裕ができ、足指が自然に開くように設計変更されているようだ。こう言うと、外側へのブロック感が落ちているように誤解されるかもしれないが、小指付け根から中足部の外側下縁の全体がかなりしっかりしていて、外流れはまるで感じない。

そして話題は「悪魔のソール」へ。質感としては、全体的にかなりガッチリした印象で、いかにも「安定モデル」らしい。屈曲ポイントの変更は前述のとおりだが、さらにソールパターンが大胆に変わっている。

まずオールコート用の【AC】は、前作は全体的に台形パータンヘリンボーンが細かく深かったが、【TOUR PRO Z 4】は爪先部が粗く細いヘリンボーン、拇指球下のパターンはブロック的に大きく粗い。そして外足側から踵部にかけてはヘリンボーンの溝が狭くて、やや浅くなっている。印象としては、オールコート用といいつつも、ハードコートへの対応力を上げるため、溝のグリップから「面の摩擦によるグリップ要素」が強くなった。必要量のスライド性もあり、うまく設計されていると思う。

いっぽうクレー・砂入り人工芝用の【CG】は、従来よりも全面が細かいスタッドで構成されている。部分によっては、グリップの方向性を持たせたスタッドもあり、人工芝に喰い込みやすく、かつ蹴り出しやすいように組まれているだろう。筆者は、前作では「クレーでのプレーならば【CG】よりも【AC】がいいよ」と薦めていたが、【TOUR PRO Z 4】では、【CG】でもソールに面の要素ができているので、素直に【CG】を使うのがいいと思う。

こうして、単なる改良ではなく、根本的に構築し直したソールを、筆者が「悪魔のソール」と呼ぶのは、「相手が怖れるから」というのもあるが、じつは、ソールの性能は飛躍的に向上したものの、ワンピースソールは重量が増してしまうという理由もある。重量増加を覚悟してでも、高性能を手に入れようとするのは「悪魔との契約」かもしれない。まぁ10グラムほどなので、「小悪魔」くらいだろうけど……。

この究極(Z)安定モデルは、闘う者のためにこそ生まれた
〜自信がないプレーヤーは触らぬほうがいい〜

上杉プロ

ここまで読んでいただいてありがたいのだが、【TOUR PRO Z 4】が万能なシューズだなどと誤解しないでいただきたい。テニスシューズは、使用プレーヤーのパフォーマンスによって性能差を持たせて組み上げられている。大切なことは、自分のスタイルに適したパフォーマンスのシューズを選ぶことだ。

実力以上のパフォーマンスモデルを履いても、シューズが持つ本来の機能を引き出すことができないし、逆に実力に足りないシューズでプレーすると、自分の実力を引き出せないだけでなく、ケガの原因にもなりかねない。

【TOUR PRO Z 4】は、あくまで最高のパフォーマンスを持つプレーヤーのために開発されたモデルだ。実力が伴わないプレーヤーには、その価値を発揮しないだろう。しかし、手強い相手と闘うために激しいフットワークを踏むプレーヤーにとっては、猛烈なバックアップをしてくれる場合がある。【TOUR PRO Z 4】は、そういう靴だ。

「テニスシューズは快適であればいい」という人には信じられないかもしれないが、シューズが自分を強くしてくれるということは、実際にあるのである。まずは試してみることだ。

松尾高司(KAI project)

text by 松尾高司(KAI project)

1960年生まれ。『テニスジャーナル』で26年間、主にテニス道具の記事を担当。 試打したラケット2000本以上、試し履きしたシューズ数百足。おそらく世界で唯一のテニス道具専門のライター&プランナー