オタクですみません…… あの【BEAMS】が、激マニアックなプリグラコラボ!あなたが使ったプリグラは、こいつのどこにいますか?
これが本当の「コラボレーション」というスタイル
〜 BEAMSとprinceとの意外な共通点 〜
いまや日本全国どこにでもある「セレクトショップ」。一つのメーカーのアイテムだけを取り扱うのではなく、ショップ側がお客様に提案したいブランドを選び、買い付け商品を販売店です。その商品展開は多種多様なブランドの商品から構成されています。
その草分け的存在が【BEAMS】の名を聞いたことがないという人は少ないでしょう。世間には「ブランド大好き・ブランドで統一するのがオシャレ」とヒートアップする方々もいらっしゃいますが、それが流行っていたのは1980年代……つまりバブル全盛期まで。それが過ぎるとむしろ「単一ブランドで揃えるなんて野暮」という風潮となり、それぞれに「良いもの」を求めるようになります。
そこで脚光を浴びるようになったのが「セレクトショップ」です。自分で探さなくても、良いものや面白いものを集めてくれている店。「あそこヘ行けばなにかある」と感じさせてくれる魅力が、セレクトショップを日本中に広めたのです。
バイヤーは「これはいい!」と感じたものを探し、掘り出し物を集めて販売します。そのためにバイヤーは、幅広い知識や感性、趣味を持ち、それが表現される劇場/ミュージアムでもあるわけです。これは「主張」でもあります。「自分の好きなものを見て!」というアピール。その最大の劇場が【BEAMS】ですね。もはや【BEAMS】自体がブランドとなり、オリジナルアイテムも多数展開しています。
でもこのスタイル……最近の【prince】のやり方と似ていませんか?
【prince】単一ではなく、面白いと思ったものを仕入れてきて、売ってしまう。他のテニスブランドでは見たことがないスタイルをやってるじゃありませんか。プリンスは「テニスブランドのセレクトショップ」ですね。
7月初旬、そんなプリンスから連絡がありました。
【BEAMS】と【prince GRAPHITE】がコラボする!?
なんのこっちゃ?と思いましたが、ZOOM画面で見せられたラケットは、『おぉっ! まさにプリグラ!! えっ、でもウッディ???』
その名も【PHANTOM GRAPHITE / BEAMS】。中身は最先端、外側はクラシック。なんだかクラシックカーが最新EVになっちゃったみたいな(笑)
企画開発担当の相馬安紀氏がウインザーラケットショップのWEBサイトでインビューに答えていました。
「2019年から、グローブライドのフィッシング部門【DAIWA】と、【BEAMS】との協業が始まりましたが、【BEAMS】スタッフの中に、プレーヤーとしても実績のある『強烈なテニスフリーク』がいらっしゃって、あらゆる時代のテニスギアやアパレルに精通していたんです。その方から『ファッションのサイドからテニスを盛り上げよう』という発案をいただいて実現に向かいました。」
「中身は【PHANTOM GRAPHITE】の最新機能スペックでありながら、クラシカルなイメージを纏わせ、1978年の初代【prince GRAPHITE】以来、とくに人気のあった歴代バージョンの特徴を、この1本でアーカイブするデザインとなっています」。
開発当初は、オリジナルのプリグラらしく、全身漆黒デザインだったのを、【BEAMS】のディレクターが「もう一ひねりしたい」ということで、まるで【prince WOODY】のように、フレームサイドが木目調に仕上げられたということでした。驚いたのが、木目調の塗装は「すべて手作業の塗り」ということで、仕上がりが1本1本、微妙に違っているといいます。筆者は先日、『ウインザーラケットショップ』での発売を待って、駆け込み確認したところ、たしかに木目に仕上げる刷毛の感じや色の濃さが、全部違っているじゃないですか!
筆者は「コラボレーション」という言葉をめったに使いません。なぜなら「ある商品に。別のブランド名を付けただけ」というものを、平気で「コラボです!」というケースが多いからです。それはね「ダブルネーム」っていうのね。プリンスは【HYDOGEN】とコラボしてますが、あそこまでやれば「コラボレーション」です。
でもね、【PHANTOM GRAPHITE / BEAMS】は、BEAMS担当バイヤーの趣味・遊びの世界。それを受け容れて、面白がっちゃったプリンスも、どうかしてる……
両方ともめちゃめちゃ大好きです。
細かい、細かすぎる! 歴代プリグラが、この1本に大集合
〜 謎のラインは、どこから持ってきた? 〜
さて、魅惑の【PHANTOM GRAPHITE / BEAMS】について説明しましょう。
注目すべき「小細工」が満載です。【prince GRAPHITE】のことをわからない人には、これっぽっちの興味もないでしょう。でもね……わかっている人でも……「わからない」ですよ(笑)
まずフレームの上からいきます。スムース側のトップ中央に『110』という数字があります。これはデカラケ開発当初のプリンスが「110平方インチ」を特許申請したときの数値で、「ワンテン」とも呼ばれました。
この数字は「1st model」「2nd model」「3rd model」まで存在せず、1988年の「4th model」で初めて記されます。このモデルから「緑1本ライン」→「超極細緑の4本ライン」にデザイン変更され、「プリグラがもっとも売れた黄金期」を迎えます。
そしてフレームを裏返してみると、同じ場所に『OVERSIZE』と記載されていますが、これは1992年の「5th model」で記されたもので、当時とまったく同じ書体を使っているところが泣かせます。1996年の原点回帰デザイン「6th model」で消えるのですが、「7th model」で復活し、以降この文字は記載されますが、書体が変わっています。【BEAMS GRAPHITE】では、初代書体が使われています……くぅぅぅっ。
さらに凝っているのは「プリグラ」を象徴する「緑のストライプ」です。まずスムース面の右側は「1st」→「3rd」&「6th」で使われた「1本ライン」。同面左側は……謎のライン。これについてはちょっと置いといて……。
ラフ面の右側には、あの「超極細緑の4本ライン」が刻まれています。懐かしいですね〜。その面の左は、2007年の「7th model」で変更された「緑&金の極細2本ライン」となっています。
さあここでスムース面左側のラインの謎解きです。「シャフト部は緑&金の極細2本ライン+フェイス部は細金ライン1本」……。これって全プリグラ歴代モデルを通しても存在しないんです。おかしいじゃん???
半日くらい気付かないままだったんですが、記憶の奥底から沸き上がってきたのが「あれっ??? これって【WOODY】???」
そうだったんです!
ここのラインだけ、木目調フレームサイドの【WOODY】イメージを持ち込んでいるんですね。これを考えた人って、よぉぉーっぽどの「洒落人」です。
【GRAPHITE】【GRAPHITE】【GRAPHITEぉーっ】て押しまくって、ここだけ【……???】。
ナゾ掛けかぁっ!
嫌いじゃないですよ(フフッ) こんな遊びはプロパーアイテムでは、とてもとても……。【BEAMS】というブランド力が、実現させた「遊びのなかの遊び」ですね。
これはもう「使う」より「ロックグラス片手に眺めていたい」……
〜 コンパクト設計にシャレた仕掛けが 〜
でもね、まだありますよ。
『prince』のロゴを見てください。スムース面左にあるのが「プリンス初代のクラシックロゴ」で「i」の点が3つ。ボールが弾むイメージです。1978年「1st model」1985年「2nd model」までこの形ですが、色は「金」ではなく「緑」でした。1990年「3rd model」からはラフ面右側の「i」上の点のが1つロゴが使われるようになり、2002年の「7th model」以降は、とうとう「i」上の点がなくなっています。
そんな歴代ロゴが3つと、スムース面右側に『graphite』の緑文字。これは初代から三代目までに記されています。もう、プリグラの歴史がフルに刻まれているわけで、「使いたい」というより「飾りたい」「自分のものにしておきたい」という欲求に溺れそうです。
最後にフレームサイドですが、非常に小さい文字で「スペック等」が緑色で記されています。その文字の中に散りばめられた「B」「E」「A」「M」「S」という5つの文字が「橙色」にされているじゃないですか。
筆者が「素晴らしい!」と思うのは、このラケットには【BEAMS】という文字もロゴもなく、ただここだけに「隠し絵」のように埋め込まれているところです。まるで江戸時代浮世絵の「隠し絵」「判じ絵」のような「あんたにわかる?」という「粋な遊び心」が封じ込められているのです。派手な着物が「贅沢禁止」で規制された時代、江戸っ子は普段見えない着物の裏地だけド派手にして楽しんだといいますが、その「粋心」ですね。
またその横には、オリジナルでは『43/8』などの「グリップサイズ表示」されていた□枠内に、『B/p』と記されています。
【BEAMS】を感じさせるのは、わずかにこの2カ所だけです。あまりにニクい。
この感覚……プリグラを知らない人には「ただの変質者」としか思われないでしょう。いいですよ、いいですよ! これを自分のものにできるなら、なんと呼ばれようと、あたしゃいっこうにかまいません。
【prince】公式オンラインショップ
https://www.princeshop.jp/shop/c/cB1/