寒いと硬くなる打球感をマイルドにする、冬テニスを乗り切るお手軽カスタマイズ!
冬だからこそ新品に巻き替えなくっちゃね

冬になると打球感は硬くなる……そのままでいいんですか?
〜もっとも簡単な冬テニスへのカスタマイズ!〜

このコラムを読んでくださる方のほとんどが「冬だってテニスをする方」と思います。いまでは各地にインドアコートが増えて、『真冬テニス』の辛い思いをしなくてもプレーできるようになっていますしね。でも……完全インドアでなければ、それなりに寒いでしょ。冬テニスには、独特の苦難が待ち構えているものです。

まず「ボールが飛ばない」と感じます。みなさん実感していると思いますが、どうしてだか知ってますか?

それには複数の原因があります。昔から言われていることに「冬はストリングが飛ばなくなる」というのがありますが、現代のストリングは、じつは日本の冬程度の温度低下ではそんなに飛び性能が低下することはありません。

それよりも影響の大きい第一要素は、「ボール自体」が飛ばなくなることです。一般的なテニスボールは「プレッシャーライズドボール」といって、「ゴムボールの弾力」と「ボール内の圧縮ガス」の両方によって飛ぶシステムになっています。つまり、ゴムの塊であるスーパーボールの弾力と、サッカーボールのような圧縮内圧による弾力の両方によって飛ぶのがテニスボールなのです。

温度が低くなると、まずゴム自体が硬くなって弾力性が落ちます。「冬は打球感が硬く感じる」というのは、実際にボール自体が硬くなるわけですから、もっともなことです。

そして気温が下がると「ボール内圧が低下」します。これは「空気が抜けたような感覚」と同じです。実際にボール内に入っているのは窒素ガスですが、新品のボールでも、低気温では「飛ばないなぁ」と感じるものです。

このダブルパンチが「飛ばないボール」の主原因であり、ストリングの反発性能低下よりも、はるかに大きな影響を与えるのです。でも、これを防ぐことはできません。テニスボールメーカーが『冬用ボール』を発売しないかぎり、なんらか別の方法で対策を講じなければなりません。それが「ストリングを張り替える」なんです。

一つの方法は「ストリングの種類を変える」こと。夏よりも「よく飛ぶストリング」に機種変更するか、「同モデルで細いものに変更」するかです。また、打球感を柔らかくしたい方は、マイルドな打球感のモデルに張り替えるのがいいですね。

本当はここまでやってほしいのですが、張り替えのための費用が負担であるという場合は、まず「オーバーグリップの巻き替え」という方法があります。1本巻き替えて「¥300〜¥400」程度のローコスト。ストリングを張り替える場合の、わずか1/10くらいで対策できるのです。

「これ……いつ巻き替えたの?」というくらい、変色して完全に潰れたオーバーグリップを新品に巻き替えると「うわぁ〜、柔らかーい!」と感じるはずです。クッション感にも好みがあるでしょうから、オーバーグリップの厚さの違いを知って、いちばん最適なものを選びましょう。

オーバーグリップ

プリンスのオーバーグリップには厚さのバリエーションがあります。
【SUPER TACK PRO】はテープの厚さが「0.50mm」という薄さですが、薄くても丈夫で伸縮性が高いのが特徴です。

それよりもクッション感を重視したモデルが【EXSPEED II】で、テープ厚が「0.60mm」。一般的にもっとも普及している厚さです。初めてプリンスのオーバーグリップを使われる方はまずこれを使ってみて、もっと薄いのがいいか、もっと厚いのがいいかの基準にしてください。

そしてプリンスで最厚なのが「0.65mm」の【SUPER EXSPEED PLUS II】。厚さによるクッション感はマックススペックです。グリップの太さが増しますが、それが気にならなければ、真冬の快適カスタマイズには最適アイテムと言えますね。

手のひらとグリップとの一体感を増すために大貢献
〜ミスショットでもグリップを回されない〜

このように、グリップテープには衝撃を緩和するクッションとしての役割があり、とくに衝撃が大きく感じやすい真冬のテニスには、大きな効果があります。しかし本来は「オフセンターで打ってしまったときにも、グリップが回されないように」というのが存在価値です。

それが「吸い付く」を意味する『TACK』=タックが商品名に付いたのが【SUPER TACK PRO】です。一般的な厚さのオーバーグリップが「0.55〜0.60mm」ですから、これはまさに「薄型タイプ」。薄いオーバーグリップを愛用するのは、競技者やスキルの高いプレーヤーが多いですね。なぜなんでしょう?

薄型タイプは、衝撃緩和の効果に関しては厚型タイプほどではありませんが、スキルの高いプレーヤーはスウィートエリアでヒットできる確率が高いため、衝撃緩和への期待度がさほど高くはないでしょう。それよりも彼らにとっては、グリップと手のひらとの関係をより正確に感知することができることのほうがメリットがあります。

グリップと手のひらの間にあるものは、厚いよりも、薄いほうがダイレクト感が強いため、グリップの「角」を感じやすく、ラケットフェイスが向いている方向をより正確に感知することができます。インパクトスピードが速く、ボールが潰れやすいグラウンドストロークでは、面の向きよりもスイング方向の要素のほうが重要ですが、ほとんどスイングしない「ボレー」などでは、ほんのわずかな面向きの狂いが、打球の結果を左右することが多いわけです。

それにハイスキルプレーヤーは、グリップを握る力も強く、ラケットが回されそうになっても、それに耐えることができる握力があります。こうしたプレーヤーは、薄めのグリップテープを頻繁に巻き替え、つねに快適なグリップ環境を保っているように思います。

トッププロ選手の多くは、試合に備えて毎日数本のラケットのストリングを張り替えます。ポリエステル系の場合は、前の試合で使わなくても張り替えます。同時に、オーバーグリップも新品に巻き替えます。それくらい、彼らにとってグリップとは大切であり、勝つための重要な武器の一つなのです。

テニスとは、硬さと柔らかさのハーモニー
〜グリップは柔らかいだけでは微妙さに欠ける〜

テニスというスポーツは「剛」と「柔」とが組み合わされてこそ、強さを発揮するもの。トップスピンでガンガン打つばかりでは、次第に相手も慣れてきて、反撃されるようになります。そこにテンポを変えるスライスショットや、ドロップボレーなどを組み込んでやることで、強打は威力を増します。フェデラーがベテランになっても強いのは、これを巧妙に行なうからです。

インパクトという現象を見ても、硬さと柔らかさが組み合わされています。テニスボールは手で握るくらいでは「硬い」ですが、強烈なインパクトでは、ゴムボールの「柔らかさ」という本質を現わして、ペタンコに潰れます。

ショットの質の剛柔は、そのまま「握りの剛柔」につながります。強烈なショットでは、握りはガッチリとなり、コースをコントロールするだけのタッチッショットでは、グリップに力を入れすぎないほうが、面の向きをコントロールしやすく、ボールへどのくらいの力を加えるかを制御しやすいですね。

先に「オーバーグリップは薄いほうが、面を感じやすい」と話しましたが、上級プレーヤーのなかには「元グリを外して天然皮革のグリップレザーに巻き替え、その上からオーバーグリップを巻く」というスタイルを好む人が少なくないです。これは、面の向きや、インパクトの状態を把握する「手のひらセンサー」の感度をアップさせるためです。もちろん、上質なグリップレザーは適度に汗の水分を吸って、滑りにくい状態を作ってくれますが、いまやほとんどすべてのプレーヤーがオーバーグリップを巻くご時世です。オーバーグリップの表層素材であるポリウレタンは、もはやグリップに欠かせぬ素材となっているのです。

オーバーグリップ

だったら……
プリンスが考えたのは「天然皮革グリップレザーをベースにして、その上にポリウレタンコーティングしてしまえ!」ということ。単純なアイディアのようですが、ポリウレタン素材のグリップテープが登場してから40年……、誰も考え付かなかったアイディアです。天然レザーに巻き替えて、その上にグリップテープを巻くという「二度手間」を排除しちゃいました。

それが【RESI TEX TOUR】なのです。
じつはすでに【PHANTOM O3 100】【PHANTOM 100】【X 97 TOUR】【X 97 TOUR LEFT】といった、いわゆる「玄人好み」4モデルに搭載済みです。カッチリした握り心地は天然皮革グリップレザー、しっとり手のひらに吸い付く性能はグリップテープ。厚さが「1.8mm」で、表面には孔があいていません。先日の展示会で発表された【PHANTOM GRAPHITE 107】にも、これが搭載されます。

んっ!? 【ファントムグラファイト】って何だ?
と思った方。鋭いです!
詳細については、来月に報告しますね。

オーバーグリップ

昔から筆者が大好きなリプレイスメントグリップ、プリンス【RESI PRO】は、しっとり感覚のセミウェット型で、表面に微細な孔があいていて、吸汗性に優れているんですが、そこのところが少し違います。【RESI PRO】は、上からオーバーグリップなどを巻くことなく、そのまま使うのが「愉悦の握り感」を味わうコツですが、ハイブリッドグリップともいうべき【RESI TEX TOUR】は、その上からオーバーグリップを巻いてもいいんです。

だったら表面のポリウレタンコーティングはいらないんじゃないの? と思っちゃいますよね。でも、天然レザーにオーバーグリップを巻く場合、使用しているうちにテープがズレてしまうことがありますが、【RESI TEX TOUR】はオーバーグリップをズレさせません。もちろん、そのまま使うこともできますから、カチッとした感覚が大好きな方はオーバーグリップなしでお使いください。

また、従来の【RESI PRO】に代わる新型リプレイスメントグリップとして【RESI TEX PRO】と【RESI TEX SOFT】が発売されます。ともに表面の孔が大きくなり、より汗によるグリップ滑りを抑えてくれます。【RESI TEX PRO】は厚さ「1.8mm」、【RESI TEX SOFT】は「2.0mm」と、クッション感覚が増します。

グリップは、自分とラケットとをつなぐ唯一のジョイント部であり、握りパワーを伝達する力点。さらにはスイングをコントロールするための操作点となる重要なポイントです。「元は何色だったの?」というほど汚れ、ペッタンコに潰れてクッション感を喪失したオーバーグリップは、清潔ではないうえに機能はゼロ。むしろないほうがいいくらいです。ビニール傘ほどの出費で、冬でも快適にプレーできるんですから、いますぐ、ショップヘオーバーグリップを買いに行くべきだと思いますよ!

松尾高司(KAI project)

text by 松尾高司(KAI project)

1960年生まれ。『テニスジャーナル』で26年間、主にテニス道具の記事を担当。 試打したラケット2000本以上、試し履きしたシューズ数百足。おそらく世界で唯一のテニス道具専門のライター&プランナー