「究極」の先に、さらなる「究極」があった。2014〜2024の10年を経て【テキストリーム×ザイロン】へ辿り着いたプリンス。

構造イノベーションの未来として迎えた「素材革命」!
〜 一本、筋が通っているブランドが【プリンス】 〜

かつてラケットの開発には、ブランドごとに「得意分野・傾向」がありました。フレームの構造に創意工夫するブランドがあれば、次々と新素材導入を繰り返していくブランド、振動対策に躍起になるブランドもありました。

ところが近年は、それぞれ「飛び抜けた個性」を捨てて、すべての機能をそれなりに備える方向に揃ってきています。ただこれによって「没個性」「均一化」「特徴が明確でなくて選びにくい」なんて声も聞こえてきます。

そんな中にあってプリンスは、「デカラケ」「長ラケ」「MORE」「O3」のように、構造的イノベーションを得意としてきたブランドですが、プリンスは「捨てない」んです。すべてのテクノロジーが、「そのまま」あるいは「形を変えて」生き続けているんです。

2014年、プリンスは新たな方向性を見出しました。ついに「素材」に着目したのです。というか、着目せざるを得ない素材と出会ってしまった……とでも言いましょうか。

それがスウェーデンのテキストリーム社が生み出した【テキストリームカーボン】という、究極のカーボン構造システムです。これはカーボン繊維自体が際立って新しいというより、「カーボン繊維を組み上げる構造」が画期的なもので、F1や航空機、ヨット、ロードバイクなど、高度なカーボン技術を必要とする分野で取り入れられており、ラケットスポーツではプリンスのみが使用できる「究極のカーボン」です。

「超極細のカーボン繊維を同方向に並べて、幅20ミリの薄いリボンを作り、そのリボンを隙間なく編んで作ったカーボンシート」が【テキストリームカーボン】です。カーボン繊維が隙間なく並べられるため、接着剤となる樹脂量を少なく抑えることができます。

スウェーデンで作られる「カーボン繊維率が高いテキストリームシート」は、通常カーボンよりはるかに「薄いのに強く」、樹脂が少ない分だけ「軽い」。だから超軽量フレームを実現し、軽くなった分を構造的自由度としても使えるわけです。

また【テキストリームカーボン】採用によって「無駄な振動=パワーロス」が抑えられるので、打球感には雑味がなく、カーボン繊維の強靭な反発性能を限界まで引き出せるようになり、「素材と構造の融合」という画期的イノベーションが成立したのです。

テキストリームが、最強素材【ザイロン】を得て進化する
〜 究極には、「もっともっと先」があった 〜

こうして誕生した究極カーボン【テキストリーム】でしたが、「もっと先の究極」がありました。テキストリームカーボン構造に、高強度で軽量な素材【トワロン】を組み込み、【テキストリーム×トワロン】とすることで、「しなってコントロール性を確保しつつ、そこからの戻りが速い」という、ラケットとして画期的な性能を得ます。

一般的に、インパクトによってフレームはしなりますが、そのしなりが戻るよりも先に、ボールはストリング面から離れていってしまいます。これは「フレームのしなりが戻る力」が、「ボールの推進力へフルに活かされ」ない状態です。

2017年に【テキストリーム×トワロン】が導入されたとき、筆者はプリンス開発スタッフから「この素材導入によって、フレームの戻りが速くなって、ボールが打ち出されるタイミングとマッチするんです」と聞かされました。でも「そう言われても、体感テストのコメントだけでは信憑性に欠けます!」と返したんです。だって、そういった手前味噌な話は、どこのメーカーでも言うし、聞き飽きていましたから……。

しばらくしてプリンスから「ちょっと見てもらいたい映像がある」という連絡があり、そこで目にした映像に、筆者の目は釘付けになりました。しなったフレームが真っ直ぐ元に戻るタイミングと同じタイミングで、ボールがストリング面を離れる瞬間の「超スロー映像」です。その撮影を依頼した先は、筆者も知る「信頼できる組織」だったため、疑う余地はありませんでした。

そもそも『テキストリーム』の大きなメリットは、パワーロスの少なさが生む「ハイパワー&ハイレスポンス」でしたが、『トワロン』が組み込まれたことで、「マイルドな打球感触」と「ホールド性能向上」、「しなり戻りと打出しとの完全シンクロによるパワー効率向上」が一気に実現したわけです。

「球持ち感が長いのに、飛ぶ」「喰い付きがいいのに、しなりから戻るレスポンスが速い」というコメントは、手前味噌でも誇張表現でもなかったのです。

「カーボンも究極まできちゃったなぁ」と思っていた2024年、もっともっと先を見せられました。トワロンは『帝人』が生んだパラ系アラミド繊維でしたが、同じ日本企業の『東洋紡』には、その2倍もの強度を持つパラ系アラミド繊維【ザイロン】があったのです。

その存在に目を付けたテキストリーム開発メーカーが【テキストリーム×ザイロン】を試したところ、「フレームの捩れがさらに少なくなり、打球へのパワー効率が向上しながら、衝撃緩和性も高くなることが検証されたため、「究極の未来」=【Z】として生まれ変わったのです。こうして【テキストリーム】は、日本の繊維技術によって、進化を遂げたのです。

松尾高司(KAI project)

text by 松尾高司(KAI project)

1960年生まれ。『テニスジャーナル』で26年間、主にテニス道具の記事を担当。 試打したラケット2000本以上、試し履きしたシューズ数百足。おそらく世界で唯一のテニス道具専門のライター&プランナー