「シューズ+インナーソール」は「フレーム+ストリング」と同じこと。適宜組み合わせれば、安全性と戦闘力アップが実現する!

現代のテニスシューズには【インナーソール】が絶対に必要
〜 【インナーソール】の基本的機能を整理する 〜

インナーソール

いくら「テニスシューズは機能で選んで!」と叫んでも、「外観デザイン」は誰にとっても気になるもの。カッコいい外観は自己満足値をアップさせる重要な要素ですし、なんといってもショップにある数あるシューズの中にあっても、注目を集めなければ買ってもらえません。でも、テニスシューズの重要要素のほとんどは『インビジブル』……内部の見えないところに隠されてしまっています。

現代のアスレティックシューズのほぼすべてに挿入されているのが『インナーソール』です。昔風に言えば「中敷」ですね。でもいわゆる中敷は、足裏の滑り止め・クッション感を与えるだけの均一厚・平坦なシートで、アスレティックシューズに標準搭載してあるものとは別物です。一般靴屋さんによく置かれていますよね。

しかし、テニスシューズにデフォルトで挿入されているインナーソールには、多かれ少なかれ「重要な機能」が秘められているのです。

■ 総合的に「安定性を高める」……安全性の確保
■ 疲労軽減・障害予防 …… アーチサポート
■ レスポンス向上 …… 足とシューズに隙間を作らない
■ パワーサポート(ちょっと特殊) …… 強い蹴り出しにバネ効果

各メーカーの考え方、各モデルの想定使用者(ターゲットユーザー)によって、その程度はさまざまに設定されますが、いまやキッズ向けモデルにも差し換え式インナーソールが搭載される時代です。

現代シューズでは上記機能を最低限保全しながらも、販売時にデフォルト搭載されるインナーソールは、基本的に「主張しすぎないもの」がほとんどです。個性的すぎると、試履きした際の「違和感」と捉えられてしまう傾向があるので、みんな無難に「当たり障りのないもの」を挿入するのが慣習となってしまっています。あとはプレーヤー個々に必要であれば、インナーソール専門メーカーのものを適宜、別購入してくださいね……という感じ。

インナーソール

ようするに、テニスシューズメーカーは「必要以上に触らない」のがインナーソールです。ただ、インナーソールが非常に重要であると考えるごくわずかなメーカーは、自社で「差し換え式スペシャルインナーソール」を開発・販売しており、プリンスはそのわずかなブランドの一つなのです。

アッパーのフィット感は気にするが、足裏のフィット性を気にしない人がほとんど
〜 シューズの基本原点は「足裏」にあり。疎かにする勿れ! 〜

テニスショップで新規シューズを購入するときは、ほぼかならず「試履き」するものですが、そのときに大半の方が気にするのは「サイズ感」「フィット感」で、「足裏の挙動状態」までチェックする方はレアです。

みんなアッパーのことばかり気にします。でもテニスシューズで大切なのは「ソール」ですよ。これはメーカーさんにも言いたいのですが、設計時にソールのセッティングに細かく気を遣わなさすぎます。もちろん、いろんな方が使われるわけですから、あまりに特徴的すぎるのもいただけませんが、無難すぎて「なにも考えてねぇな」ってものも実際にあるんです(少なくないから困ったものです)。

靴・シューズの根本的な役割は「足を守る」ことですね。アスレティックシューズ、とくにテニスやバスケットボールなど、急激に激しい動きが必要で、足に非常に大きな負荷がかかる競技では、『足の挙動を安定させること』がとても重要です。メーカーでは各モデルの想定パフォーマンスに合わせてソールの機能レベルを調整していますが、最高レベルのものでも、先述したとおり、極端に特殊なインナーソールをデフォルト装備しないものなので、あとは自分で必要に応じて対処する必要があるのです。

またプレーヤーは、「アーチサポートの高さ」についても注目……いや「注足」しなければなりません。「アーチサポート」というのは、いわゆる「土踏まず」を押し上げてくれる機能のことです。足の骨は片足「28個」もあり、それぞれが連結し、複雑に支え合って動いて機能します。そのなかで、土踏まずの上にあって、着地・蹴り出しのたびに上下に動くのが「舟状骨(しゅうじょうこつ)」で、これが強い踏み込みによって沈みすぎると、土踏まず部の「足底筋」を必要以上に伸ばしてし傷めたり、外反拇趾の原因になったり、足裏のバランスが崩れて不安定さを招いてしまいます。

そうならないように土踏まずを下からしっかり支える「アーチサポート機能」を搭載した挿し替え用インナーソールが【アーチサポーター3.0】です。自分の足の土踏まずがキュッとくびれて高い方や、デフォルト搭載インナーソールでは土踏まずが低くて疲れるというプレーヤーは、これに挿し替えることを薦めます。

デフォルトよりも堅く厚い形状による、しっかりしたアーチサポート機能のおかげで、「拇趾球」「小趾球」「踵」の逆三角形3点にかかる力がバランスよく保たれ、極端にどこかだけに負荷をかけすぎない「3点サポート」が実現します。また【アーチサポーター3.0】の踵部は、堅い素材が踵の形状に合わせた丸みで包み込んで立体的に踵を支えるため、踵が左右に倒れやすくなるのを防ぎ、踵骨の真下点だけにかかりがちな圧力を面に分散して、踵の安定化と負荷軽減に寄与するよう設計されています。

また土踏まずを「縦アーチ」とするのに対して、「拇趾球」「小趾球」を横につなぐ線を「横アーチ」と呼び、わずかに緩やかに湾曲しています。この横アーチを違和感なく自然に押し上げるために、足裏に接触する上面ではなく、その裏側(インナーソールの下裏側)に膨らみを設けてあります。これなど「見えないパーツのさらに見えないところ」に隠された機能で、いやじつにどうも……ニクいね!

インナーソールは、シューズ全体の機能にも寄与する重要アイテム
〜 「必要ならば」選択できるってところがいいじゃないか 〜

インナーソール

「堅い」という言葉に反応した人がいたら、あなたはかなりの敏感者です。「硬い」ではなく「堅い」の文字を使ったのは、「質が強くて丈夫・信頼できる」というニュアンスだからです。【アーチサポーター3.0】は全体的に堅くて厚いのですが、足裏に接触する面(ライナーと呼びます)には通常よりも低反発の素材を使用しているため、足裏感はむしろ快適です。

クッション性……というよりは「足裏密着性」ですね。つまり「足裏とシューズとの間に隙間がない状態」を生み出します。それによって「足とシューズの一体性」を高め、シューズ内での足ズレによるパワーロスを抑え、踏み込みから蹴り出しに転じる瞬間のレスポンスを高めてくれるため、強い踏み込みをする競技者にはありがたい機能です。

前足の踏み付け部も、インナーソールの裏側が「堅く」、そのおかげで、強い踏み付けでも足裏の一部分だけが沈み込むのを抑え、圧力を面として受け止めて分散するため、結果的にパワーレスポンスが加速されます。よく「ソフトなクッション感がいい」という表現がありますが、軽い踏み付けならば快適で嬉しいですけど、強く踏む場合には、足裏が部分的に沈んでしまうと、下から押し戻してくれる力が小さく、不安定感にも繋がるのです。

さらに、前足部分の「曲がり具合」も、やや堅めです。「やや」と書きましたが、シューズの中に挿入され、足裏で強く圧迫されるインナーソールの許容可動性は大きく制限されるため、フリーな状態の単体を曲げる感覚よりも、シューズ内部の曲がり感覚は、より強靭に感じます。この「前足部のちょっとした堅さの違い」が、屈曲〜戻りでのバネ効果の違いとしても発現するわけです。

これは筆者の個人的な感覚ですが、この【アーチサポーター3.0】がマッチするプリンステニスシューズは、【ワイドライト IV】がベストと感じます。このシューズは「足囲」に余裕を持たせているため、ワイドな足の方でも、しっかりした安定感を求める方にとっては、デフォルトのインナーソールよりも、【アーチサポーター3.0】に差し換えたほうが安心感を高く感じられるかと思います。

逆にアーチが低めで扁平な足の方にとっては、【アーチサポーター3.0】の堅めで高い土踏まずは、辛いかもしれません。少しでもそう感じる方は、無理して使わないでください。「すべての方にとっていい道具」なんてないのです。

そして「それならトップモデルの【ツアープロZ IV】や【ツアープロライト VI】にもよかろう!」という方もいるでしょう。わかります……。でもこの2機種は、すでに堅牢なソールを備え、足囲も「2E」とタイトにできていますので、【アーチサポーター3.0】を挿れると、かなりタイトに感じるでしょうから、ものすごく足幅の狭い方のご利用がよろしいかと思いますよ(笑) これだけの機能レベルで、¥3,300(税込)は、かなり安いです!

松尾高司(KAI project)

text by 松尾高司(KAI project)

1960年生まれ。『テニスジャーナル』で26年間、主にテニス道具の記事を担当。 試打したラケット2000本以上、試し履きしたシューズ数百足。おそらく世界で唯一のテニス道具専門のライター&プランナー