ふんわり優しい【SOFT】、 しっとり堅実【PRO】、 がっちり正確【TOUR】、 秀逸なるprince【RESI TEX】の世界観!

グリップはスウィングという運動連鎖の最終出力ポイント
〜 あなたとラケットを繋ぐ10センチちょい 〜

昔から強く感じていることですが、みなさんがラケットを購入するとき、ラケットフレームのことは深く考えるのに、「グリップが重要」と考える人はなかなかいません。買ってすぐにグリップテープを巻くのが「当たり前」みたいに言うショップ店員さんがいますけど、本当にそれでいいんですか?

スウィングは、身体全体を使った運動連鎖によって成立するものです。テイクバックによる後ろ足加重、スウィング開始からの前足への加重移動、インパクトへ向けての上半身回転運動→腕の回転運動→手首の回転運動。

最終的にあなたがパワーを集中させるのはどこですか?
グリップですよね!
テニスを含むラケットスポーツのすべてにおいて、プレーヤーが打球に対して関与できる終着点が「グリップ」なのです。

グリップは、自分とラケットとをつなぐ唯一のジョイント部。ラケットコントロールのための「作用点」。スウィングパワーを伝達するための、唯一の「力点」。もっと先には、その打球がストリング面のどこに当たり、どのくらいのパワーと回転を伝えることができ、相手コートのどこへ落ちるかを知るための「センサー」でもあります。

そんな大切なポイントであるグリップという存在を、みなさんはあまりに軽視しすぎちゃいませんか? 太さ・形状・握り感覚……、その感覚がちょっと違うだけで、自分本来の最高パフォーマンスを発揮できなくなるプロがたくさんいます。もっとセンシティブにグリップと向き合ってほしいです。

現在のテニスラケットに装着されるグリップの太さは、41/8 〜 44/8くらい。これは昔のグリップサイズ表示ですが、ここにこそ意味があるのです。いまのグリップサイズ表示は「1」とか「2」とか「3」と、まるで細い順番に付けられた番号みたいですが、そうではなく、「1」=「41/8」、つまり「1/8」の「1」という意味であり、「2」=「42/8」、「3」=「43/8」なのです。

またグリップサイズとは、グリップの周長を示したもので、そしてその単位は「インチ」。1inch=2.54cmとして計算するなら、「サイズ1」は「10.4775cm」、「サイズ2」は「10.795cm」、「サイズ3」は「11.1125cm」と、1サイズに大きくなるにつき、わずか「0.3175cm」、たった3ミリ強しか違いがありません。

でも、グリップが1サイズ違えば、わかりますよね! 感じますよね!
人間の握りの感覚とは、直径わずか1ミリの違いを関知するのです。それくらい敏感なんですよ、我々の手のひらって!

あまりに衝撃的だったプリンスの「1989年グリップ改革」
〜 世界に先駆け、ふわふわクッショングリップ! 〜

今日、プリンスが各ラケットに装備させるシンセティックグリップは、ラケットごとのスタイルに適した設定をされたものが、それぞれ選ばれています。でも1990年までは、ほとんどのラケットが「天然レザーグリップ」を標準装備していました。

我らプレーヤーにとっては、ごくごく当然のことであり、これにグリップテープを巻いて使っていたわけですが、1989年にプリンスが発表した【CTS THUNDERSTICK】【CTS LIGHTNING】【CTS APPROCH】には、まるでグリップテープのような素材のグリップが巻かれていたのです。聞くところによると「シンセティックグリップ」というのだそうです。

数年後、天然レザーグリップは完全にその地位を乗っ取られ、いまやほとんどのラケットがシンセティックグリップとなって、天然レザー装備のラケットは、ごく限られた、きわめて競技性の高いモデルだけに残る「超マイノリティ」になってしまいました。

いま考えてみると、これにちょっと遅れて、テニスシューズも「天然レザーアッパー」から「シンセティックレザーアッパー(人工皮革)」への移行が起こっています。天然レザーに比べてコストの安いシンセティックものは、メーカーにとって大きな魅力でした。でも「天然レザーの代用素材」感が強いため、本気には手を出さないメーカーでしたが、シンセティックレザーのシューズが、初めて天然レザー製よりも高い値段で売られたのをきっかけに、世界は一気にシンセティックレザーアッパーへ移行したのです。

さて話を戻して……、プリンスはこのグリップ革命の先駆け的な役割を果たしたわけですが、他のグリップと明らかに違っていたのが「クッション感」でした。グリップには『CUSHION GRIP SYSTEM』と刻まれています。硬い天然レザーグリップに慣れている我らには、驚くほどの「ふわふわ」感でした。

当時は「厚ラケ」が定着し、ラケットフレームは急速に硬くなっていく流れにあり、パワーが逃げない反面、インパクトによる肘や腕への衝撃が増す時代。その衝撃感をグリップで緩和しようとする傾向は、プリンスの『CUSHION GRIP SYSTEM』を皮切りに、各社が対応を試みました。

こうして一般化したシンセティックグリップの世界でしたが、さらに一歩飛び抜けたのがプリンスでした。2009年、新発売された【EXO3 REBEL】に標準搭載されたシンセティックグリップに、筆者は度肝を抜かれました。

「どうせグリップテープを巻いちゃうんだから、元グリなんて巻いてあればいいでしょ」といった風潮の中、プリンスが本気で開発搭載したシンセティックグリップは、わずかなクッション感としっとりした握り心地。非常に小さな孔が開けられて、汗による滑りを感じさせない……。

他のどんなグリップテープも、これに優るものはありませんでした。これにグリップテープを巻くヤツはアホやな……(筆者の個人的感想です)。それくらいまったくの別物。それが今のリプレイスメント(巻き換え用)グリップ【RESI TEX PRO】なのです。

グリップの適材適所を明確にした3つのコンセプト
〜 グリップテープを巻かないで使ってみてーっ 〜

テニスショップの店頭に陳列されるラケットフレームのグリップには、透明なフィルムで包まれているため、その握り心地の違いを比べることはできませんが、もしもこれがなかったら、プリンスのラケットは、もっともっと売れていたことでしょう。それくらい明確に違っていました。

シンセティックグリップの握り心地については完全に諦めていたのに、まるで最高級天然レザーのようなしっとり感と、面の状況をはっきり感じさせるしっかり感。いきなり飛躍的進歩を遂げたプリンスグリップは、現在の【BEAST】【TOUR】シリーズに標準搭載されています。

RESI PRO「そんなにいいというなら、全部のラケットに標準搭載すりゃあいいじゃないか!」という声が聞こえてくるようですが、最適なグリップ・好まれるグリップは使用層によって違う! ということを、プリンスはちゃんとわかっています。

RESITEX PRO

どんなラケットも、使用プレイスタイルが想定されて開発されます。つまり「こんなプレーヤーに使ってほしい」というターゲットです。それぞれのプレーヤーが求めている感覚に適応して、各モデルごとにベストなグリップシステムを、もっとも明確に使い分けているのがプリンスなのです。

RESI TOUR前述のとおり、【RESI TEX PRO】は、【BEAST】シリーズと【TOUR】シリーズに搭載されていますが、よりインパクトの状況を把握したいというマニアックなプレーヤーを想定している【PHANTOM】シリーズには【RESI TEX TOUR】が搭載されています。これは「天然皮革グリップとシンセティックグリップとのハイブリッド構造」で、それぞれの良さを表現するため、天然レザーのベースにポリウレタンコーティングを施したグリップなのです。

RESITEX TOUR

カチッとした感覚が大好きな方はグリップテープなしでお使いいただき、グリップテープを巻いて使いたいという方は、どうぞ自分の好みに合わせてお使いください。その際にも【RESI TEX TOUR】には「グリップテープをズレさせない」というメリットがあります。

RESI SOFTさらに、ハイパワーモデルの新【EMBLEM】シリーズには、【RESI TEX SOFT】が標準搭載されます。高反発系ハイパワーモデルを使われる方は、スウィングもゆっくりめで、マイルドな打球感をお求めの傾向が強いので、衝撃感が少なく、振動も感じにくい【RESI TEX SOFT】をマッチングさせています。

RESITEX SOFT

同じ【Prince X】シリーズでも、モデルによって搭載グリップシステムを使い分けているのが、プリンスのニクいところ。軽量タイプの【Prince X 105 225g】には衝撃感を緩和する【RESI TEX SOFT】。もっと積極的に攻撃したいプレーヤーの使用を想定した【Prince X 105 270g】【Prince X 105 290g】には【RESI TEX PRO】を搭載するという細かさです。さらに細かいところは、【Prince X 97 TOUR】【Prince X 97 TOUR LEFT】といった、「玄人好み」のモデルには【RESI TEX TOUR】が搭載されます。

想定使用プレーヤーによって搭載分けされている【RESI TEX TOUR】【RESI TEX PRO】【RESI TEX SOFT】という3タイプのグリップですが、「交換用」としてそれぞれ単独販売されているので、どうしても! という方は、お好みに合わせて巻き替え使用されるといいでしょう。

グリップテープは、どんなラケットにも必要なアイテムではありません。プリンスグリップは、そのままで十分に満足できるクオリティを誇ります。「やっぱりそのままがいいね!」と感じた方は、次に選ぶグリップサイズを「1サイズアップ」にしてください。もうグリップテープを巻かなくていいんですから!

松尾高司(KAI project)

text by 松尾高司(KAI project)

1960年生まれ。『テニスジャーナル』で26年間、主にテニス道具の記事を担当。 試打したラケット2000本以上、試し履きしたシューズ数百足。おそらく世界で唯一のテニス道具専門のライター&プランナー