ポリエステル主流の昨今、プリンスのマルチフィラメントが売れている。【EMBLEM TOUCH SF】は、上質なフィーリングとナチュラルライクなラグジュアリーストリング!

ポリエステル系って自分に向いているのか? やっと気付く人が増えた
〜 見直されつつあるマルチフィラメントの快適さ 〜

ポリエステル系ストリングは30年以上前に「ストリングがすぐに切れてしまって困る」というプレーヤーのために誕生し、15年くらい前から世界のトッププロが、ナチュラルガットからポリエステル系ストリングに乗り換えたことで一般にも普及し始め、今日ではポリエステル系ストリングが主流の地位を乗っ取りました。

プロたちがポリエステル系に換えたのは、ラケットフレームの反発性能が向上したため、高い反発性を持つナチュラルガットでは、彼らのフィジカルパワーにとって「オーバーパワー」となったからです。それに「切れにくい」ことを「耐久性が高い」と謳ったメーカー広告が「寿命が長いストリング」と思わせたため、張り替えを節約したい人々が飛びつき、ストリング市場を席捲するまでになったのです。

しかし最近では、「ポリエステル系は私にマッチしてないかも……」と気付く一般プレーヤーが増えつつあり、かつて使っていたナイロン系に戻すケースが非常に多く見られます。だってそのほうが楽に飛ばせるんですから!

ナイロン系ストリングには、構造の違いによって「モノフィラメント」と「マルチフィラメント」とがあり、一般に「弾きのモノ」「マイルドのマルチ」と言われ、「低速インパクトでも伸縮を発現してくれるために、ゆっくりスウィングでも軽快にボールを弾き返すことができます。

とくにマルチフィラメントは「打球感が柔らかく快適で、ボールとの接触時間が長い」と、ポリエステル系の対極にあることが再評価されているのです。けっしてポリエステル系ストリングが悪いわけではありません。使うべき人が使えば、ものすごいパフォーマンスを生み出してくれる強烈な武器です。でも「誰にでもいい」わけではありません。

そういうことを15年間、原稿を通じて訴えてきましたが、ようやくみなさんに理解してもらいつつあります。まぁ、筆者の功績ってわけじゃありませんけど……(笑)

このところプリンスが高く評価されている理由とは?
〜 品質の高精度さと、ターゲットが明確なポジショニング 〜

こうしてプリンスギアのコラムを書かせていただいている筆者にとって、嬉しいニュースが聞こえてきます。これはひいき目でもなんでもなく、あらゆる方面から「コロナ禍でラケットが売れない状況にあって、プリンスがけっこう売れている!」という噂を聞くのです。

その理由について、筆者なりに考えてみましたが、まず国際トーナメントが少なかったせいで、プロが使っているモデルに飛びつく購買者が減り、プロダクトをよく見て検討して購入する方が増えているのではないか?

また、プリンスが非常にこまめに展開するSNS戦略が功を奏しているようにも感じます。試打会も各地で頻繁に開催しているし、自分のホームコートで試打できる「デモレンタルプログラム」などあり、イメージだけでなく、実際にプリンスラケットに触れてもらって、優秀さを体感してもらおうという活動による効果と感じます。

それからプリンス製品のラインナップを眺め直してみると、とくにラケット部門で「ターゲットが明確なポジショニング」ができているように感じます。戦闘的に攻めるツアーモデルと、ひたすら快適さを追求するラグジュアリーモデルのベクトルが、はっきりしているようです。そしてオールマイティモデルも、ユーティリティに長け、個性も豊か。プリンスブランド50周年ということもあり、さまざまな仕掛けがあって、なんだか魅力があるんですよね。

こうした動きにシンクロするように、ストリングもまた、使う人にとって「快適・満足」を感じてもらうための明確なセッティングで登場しています。いま注目したいのが【エンブレムタッチSF】というナイロン系マルチフィラメントです!

プリンスのマルチ3バリエーションは、こんなふうに違っている
〜 マルチのコンストラクションが性能に与える効果とは 〜

EMBLEM TOUCH SF

テニスショップには、非常にたくさんのストリングが並び、少なくなったとはいえ、マルチフィラメントにも数々の選択肢があります。……が、問題は「どれを選んだらいいかわかりにくい」ということです。使ってみなければわからないのがストリングですが、ある程度の目安のつけ方を、プリンスストリングのマルチフィラメントで見てみましょう。

プリンスには【エンブレムコントロール】【エンブレムLT】【エンブレムタッチ】という3種の純マルチフィラメントモデルがあります。純マルチというのは正式名ではなく、【ハリアーパワー】などのモノマルチと区別するために、筆者が便宜的に名付けたものです。

3機種とも極細マルチフィラメントの束がベースですが、構造的な違いがあり、それがそのまま性能差になっています。まずマルチの束の中心に3本のモノ芯があるのが【エンブレムコントロール】、マルチの束だけでできているのが【エンブレムLT】【エンブレムタッチ】です。【エンブレムコントロール】は、マルチフィラメントのマイルドコンフォートと、モノ芯のテンション維持性(性能的寿命)を合体させる狙いで構築されています。

【エンブレムLT】と【エンブレムタッチSF】との構造的違いは、大きく2つあります。まず、【エンブレムLT】には、束ねられたマルチフィラメントの外側に「側糸層」があってポリアミドコーティングされていますが、【エンブレムタッチSF】には側糸がなく、厚いシリコンコーティングが施されているだけです。そのため、マルチフィラメント構造本来のマイルドさを感じ取りやすくなっているわけです。

そしてもうひとつの違いが『ストレート』か『捩ってある』かです。この構造差が「打球性能の個性」を生み出します。
簡単にたとえて言うと……
◎マルチフィラメント束〜ストレート配置
 「強力なゴムバンド:素材自体の伸縮 → 反発パワー」
◎マルチフィラメント束〜捩り配置
 「強力なコイルバネ:構造による伸縮 + 素材自体の伸縮 → 反発パワー」

マルチフィラメントをストレートに使う【エンブレムLT】は、それぞれの極細フィラメントが瞬間的に伸び、それが縮もうとする力を反発パワーとするリアクションのため、インパクト→球離れ が軽快なレスポンスとなります。

いっぽう、マルチフィラメントを捩ってある【エンブレムタッチSF】では、インパクトの瞬間に、まず「捩れが伸びる」構造的挙動があります。ちょうどコイルバネが伸びるとき、ビヨ〜ンと伸びるアレで、このときに「ボールのホールド感」が生まれます。そして伸びきった後に、素材自体の伸縮〜反発が発現するので、球乗り感があってから、強く弾き出す構造であり、「とてもホールド感を感じる」という評価コメントとピッタリ一致します。

また【エンブレムタッチSF】では、「強く打つか」「軽く打つか」でも反発感に違いがあります。強く叩くときは、コイルバネ効果によって球乗りがいいホールド感を感じます。ホールド感の後には、高弾性マルチフィラメントによる強靭な伸縮性能によって、強い弾き出しを実現しますが、軽く打つとコイルバネ効果は小さく、接触時間が短くて、軽快にボールが飛び出していくのです。
EMBLEM WEB2
【エンブレムタッチSF】って、機能的にはナチュラルガットに似ている
〜 非ポリユーザーが欲していること全部乗せ 〜

EMBLEM TOUCH SF

また【エンブレムタッチSF】の表面コーティングは、マルチフィラメントとしてはちょっと特殊です。ポリエステル系はストリング表面も硬く、縦糸と横糸の交差部分で喰い込みが起きにくいため、糸同士の滑りがよくなって「スナップバックしやすい」という特徴があります。猛烈なインパクトでボールを叩くプレーヤーは、伸びにくいポリエステル系でもスナップバック効果を発揮させることができますが、そこそこのインパクトスピードのプレーヤーでは、こうしたスナップバック現象を引き出すのはむずかしいのです。

では伸縮しやすいナイロン系マルチではどうかというと、極細フィラメントをまとめる樹脂には、とても柔らかいものが使われることが多いので、表面も「もっちり」して、スナップバックは起こりにくいことが多いのです。

でも【エンブレムタッチSF】には、シリコンをとても厚くコーティングして剥げ落ちにくくした特殊加工が施されているため、縦糸が自由に動きやすく、スナップバック効果によるスピンがかかりやすくなっています。

そもそもスナップバックによるスピンサポートって、通常〜ゆっくりめスウィングのプレーヤーにこそ必要なものだって、知っていましたか?
自分のパワーでスナップバックさせられるプレーヤーに、スナップバックしやすいもの(ストリングパターンor表面コーティング)を使わせると「ボールが出ていかない」「打球が持ち上がらない」というコメントが返ってきます。ポリエステル系を使う彼らには、簡単にスナップバックしてしまうことは「レスポンスが遅い」と感じられ、必要としないのです。

それを欲するのは「スピンがかかるように振り上げるんだけど、どうしてもかかってくれない」と悩むナイロン系ストリングユーザーです。そんな方にぜひ試してもらいたいのが【エンブレムタッチSF】であり、彼らは大きな価値を感じるはずです。

基本的にマイルドなマルチフィラメント構造でありつつも、軽く打ったときには爽快感のある飛びを演出し、強打ではホールドの高さを感じる……気が付いてみると、この表現はナチュラルガットを語るときに使う文言です。おまけにスナップバック効果によるスピン性も高い。シンセティックストリングとしてはけっこうなお値段ですけど、一度使った方は、おそらく……ハマります。

松尾高司(KAI project)

text by 松尾高司(KAI project)

1960年生まれ。『テニスジャーナル』で26年間、主にテニス道具の記事を担当。 試打したラケット2000本以上、試し履きしたシューズ数百足。おそらく世界で唯一のテニス道具専門のライター&プランナー