パリに実ったプリンス「グラスルーツ」…… 【IGA was NEXT】! シフォンテクは革命プリンスの純白ジャンヌ・ダルク
プリンスという異端児の新しさが認められるまで
〜 ラケット革命が新世代を創ってきた 〜
今日、「1980年代……デカラケ革命が新世代テニスを築いた」と言われています。しかし登場当初は、伝統を重んじるテニス界に投じた波紋があまりに大きすぎて、「ヘタな人用ラケット」「女子供のラケット」「バケモノラケット」など、さまざまな中傷を浴びたデカラケ。それが1970年代に生まれたプリンスラケットでした。
そう……『でした』と言われるのは、『ではなくなったから』です。テニスのルールブックは「突飛な性能や予測不能な結果を生む道具を排除するため」に書き替えられています。しかし、およそ70平方インチのテニスラケットが、約1.5倍の110サイズになったことを禁じた歴史はありません。
なぜならば、それがテニスを易しくし、楽しくし、人々に笑顔を与えたからです。そしてその怪物ラケットを使ってテニスを覚えた世代が、ワールドテニスシーンを新しいものに塗り替えたのです。パム・シュライバーがデカラケを世界に認めさせ、カーリン・バセット、ガブリエラ・サバティニが注目を集めます。マイケル・チャンが17歳で全仏王者となり、アンドレ・アガシの過激なスタイルが人々の目をひく……みんなプリンスのデカラケを手にしていました。
70平方インチという既成概念をブチ壊し、テニスを新世界へ導いたのがプリンスであり、それで育った若者が新しいシーンを描いていったのが1980年代以降のこと。ウマくなるには時間がかかる「むずかしいスポーツ」とされていたテニスが、デカラケ革命のおかげで、誰もがラリーを楽しめるようになりました。
そしてデカラケでテニスを覚えたジュニアたちは、そのハイパワーを利用して高速テニスを展開し、いとも簡単にトップスピンによる逆襲を見せます。昔のテニスしか知らない人にとってデカラケテニスは、まるで宇宙人のそれに見えたでしょう。
コロナ禍によって異例の秋開催となった全仏ですが、デカラケ革命をリードしたプリンスが、30年を経て生み出した新しいラケットの流れ……【デカラケ】、【長ラケ】、【MORE】、【O3】&【TeXtreme×Twaron】を世に根付かせるため、地道に蒔いてきた種が、なんとチャンが快挙を成し遂げたと同じ赤土に実ったのです。
プリンス グラスルーツキャンペーン【who’s next】の収穫
〜 独自技術を育成し、若者たちを応援する 〜
デカラケによって、テニスに大きなパワーがもたらされ、さらにその後、厚ラケ〜長ラケなどの形状改革が進むのですが、それ以降のテニスラケットは、どれも同じような雰囲気に収まっていました。画期的なラケットは登場せず、つまらなくて眠い時代……でもその目を醒ましてくれたのが【MORE】から発展した【O3】です!
これまでの打球感覚とはまるで違う、「宇宙人ふたたび!」っていうインパクト。あまりの独自性に、普通のラケットに浸かりきっているベテランたちはそっぽを向きます。普通のメーカーならその時点で諦めて、さっさと方向転換するのですが、プリンスは違うんです……。
捨てない……。
プリンスには「デカラケ」という経験があります。すぐには受け容れられなくても、いずれ自分たちの時代が来る。それに【O3】を気に入って使ってくれているファンのためにも、そう簡単にやめるわけにはいかない。これからは【O3】で育つジュニアが世界に飛び出す。そうなったときに「また世界は変わる」という空気感の中で、将来のチャンピオンをバックアップする『who’s next』という、プリンスの世界的グラスルーツキャンペーンが始まります。
その中にいたのが……イガ・シフォンテクでした。毎年、各アパレルメーカーが「ウィンブルドン縛り」から解き放たれたようにカラフルなウェアを選手たちに着せる全仏で、ただ一人、全身純白を纏って、初戦から怒濤の進撃を見せます。
彼女が1回戦〜決勝までの7試合で、ロスセットなし。相手に与えたゲーム数は、わずか「28」。もちろんシフォンテクは「84」を自分のものにしています。1試合平均「4ゲーム」、1セット平均「2ゲーム」しか落としていません。しかも3回戦を除く6試合、「6—1」でセットを奪っています。
俄然、注目を浴びたのが4回戦。第1シードのハレプを「6—1」「6—2」で降した戦いでした。バリバリのトップシードを、ほぼ誰も知らない、派手なウェアも提供してもらえないのかって感じの、いかにも地味ぃなジュニア上がりが圧倒しちゃったわけです。
純白の衣装なだけに、ラケットの緑がとても目立ちます。彼女は5年前からprince【TOUR】を愛用し、【TeXtreme×Twaron】搭載モデルを使い続けています。
プリンスのスタッフは、ジュニア時代からシフォンテクに目を付けていたと言います。ラケット開発担当者が、彼女の名を耳にしたのは3年ほど前のこと。プリンス本社のフタッフが「ポーランドのイガって知ってるか?」と。その後、2017年ウィンブルドンJr.で優勝。2018年ユースオリンピックのダブルスでも優勝のニュースを聞き、その名が脳裏に残っていました。
【TOUR(290g)】を愛用し、奇声を発せず、高速ショットをドッカンドッカン叩き込むスタイル。かと思えば、そんなに擦り上げるようでもないのに、かなりのトップスピンも織り交ぜるじゃないですか。
「このラケットは5年前から、好きで使っている。他のラケットもテストで使うけど、私はこれが好き」とコメントしました。契約金の縛りがあり、そのブランドから好きなのを選んでいる……ってわけじゃないんです。「すべてのラケットの中で、いちばん気に入っている。掛け値なしでこれが好きだから」ということでしょ。プリンスとしては嬉しいですよね!
全仏決勝戦前に、シフォンテクの優勝は決まっていた???
〜 290gで戦い抜くことの大きなメリット 〜
シフォンテクへのインタビューで、もう一つ話題になったことがあります。彼女が使っているのが【TOUR(290g)】だという話です。「290g」って女子でもずいぶん軽いんじゃないの? という噂。まぁたしかに身長175cmのアスリートが振り回すには軽いかなと思いますし、そんなに軽くて、よくあれだけの高速打球を放てるな……とも感じます。
その秘密を知るには、プリンスがほぼすべての競技系モデルに採用している【TeXtreme×Twaron】というカーボン素材について知ってもらうのがいいでしょう。【TeXtreme】はスウェーデン製の素材で、カーボン繊維を薄く単一方向へ敷き並べたリボンを90°の角度で編んでシート状にしたカーボンシートです。
カーボン繊維が隙間なく整然と並ぶために強度が高く、これをフレームのフェイス下部からシャフト全体に投入したのが、初代のprince【TeXtreme】テクノロジーですね。他社ラケットの「高剛性競争」によって、どのラケットも非常に硬いシャフトを備えるようになるなか、プリンスは「シャフトを硬くしないで強くする」ために【TeXtreme】を選びました。その後【Twaron】というスーパー繊維を織り込むことでしなり(ノリ感)を追加しました。
とくに【TOUR】は、ボックス構造という形状的な球持ちのよさがあるだけに、しなりながらも面の捩れを抑制してエネルギーロスを削減する【TeXtreme】との相性が良く、ホールド感とスピン性能がバランスよく噛み合いました。
強靭なカーボンを使えば、全体のカーボン使用量を抑えることができ、軽量化することができます。しかも単に軽いだけでなく「しなり→戻り」によってボールを弾き出す力がある【TeXtreme】テクノロジーは、300g主流の時代に290gまで軽くしても、相手の打球に打ち負けることがありません。
今日、黄金スペックがあまりに大流行してしまったために、「自分には300gしかありえない!」と、イメージだけで決め付けてしまっている人がどんなに多いことか……。そこでシフォンテクは考えます(よりも体感したほうが早かったでしょうけど)。1トーナメントでスウィングするのが練習を含めて仮に5000回とすると、最終日の疲労度って?
みんなが振るラケットよりも10g軽ければ、単純に10g×5000回=50000g=50kg も負担が少なくなるってこと。それで同じだけのパワーボールが打てるのならば、290gのほうがいいじゃない!(注:本人がそう考えたかどうかはわかりません)
しかもローランギャロスでは、シフォンテクは決勝まで1セットも落としていないのです。かたや決勝の相手であるケニンは、6試合のうち4試合がフルセット。そして戦ったゲーム数は「139」。シフォンテクは6試合で「95」でしかありません。ケニンはシフォンテクの1.5倍も戦っていたわけです。しかも、シフォンテクのラケットはずいぶんと軽い……。体力的な統計から見れば、シフォンテクの優勝は決まったようなものでした。
さて、みなさんはもうご存知かと思いますが、現在、このモデルの最新型が、日本限定の純白仕様、しかも世界に先駆けて発売されています。【TOUR TeXtreme】から【TOUR TeXtreme×Twaron +ATS】に至るまでのストーリーは、次回のコラムに乞うご期待!