カタツムリ型でも小型バックパックでもない。 自立する「オトナ・ラケバ」というスタイルは、 納得できる利便性に満ちている!

「昔はラケバなんてどんなのでもよかった」の理由
〜ほとんど同じ形、移動は車が中心だった〜

テニス用バッグという概念が生まれたのは1970年代。最初は「ラケットだけを運ぶためのケース」で、シューズやタオル、ボールにウェアなどのテニス道具をまとめテニス運ぶためのバッグは「トーナメントバッグ」と呼ばれ、薄型で横長の長方形か横長オーバル(陸上競技のトラックのような)に、ハンドルが付いたものでした。これを持っているのは、それなりの上級者で、「僕はテニスをする人です」というステータスに包まれていたものです。

それが1980年代後半に、あらゆるテニス道具をまとめて収納して運ぶという「ラケットバッグ」が増え始めます。誕生してから20年以上、ストラップは1本で、それを片方の肩に掛けて携行するスタイルでした。今日のような両肩に背負うリュックスタイルが出現したのは、ほんの10年前くらいのことです。

昔のラケットバッグの形は、どのメーカーもほとんど同じ。色やメーカーロゴが違うくらいしか個性の差はなく、せいぜいアウトサイドにポケットが付いているくらいで、「機能性」など皆無。バッグの中はスッカスカなので、収納した荷物は、重力のなすがままにバッグ下方へ大集合。何かを取り出すときには、底にごった返した荷物の中から探し出すしかありません。

でもその頃は、それでよかったのです。当時の社会人は、テニスコートヘ行くのに車を使うことが多かったため、駐車場からコートまで運べる袋としか思っていなかった感じです。ですからユーザーにとっては、メーカーによってデザインが違う、ただの袋でしかなかったラケットバッグに期待する要素は少なく、「ラケバなんて、どれも似たようなもの」という雰囲気だったわけです。

大人は「脱カタツムリ型」、地味デザインのザック型へ
〜アウトドアスタイルのバッグトレンドに乗る〜

OD841写真

ところが近年の都会では車を持つ若者が激減し、テニスコートヘ行くのにも電車で移動するケースが多くなって、電車内や駅のホームでラケットバッグをかつぐ姿を見かけることがとても多くなりました。その傾向は若者だけでなく、大人たちにも波及します。そうなってくると、ラケットバッグに期待することが多くなっていきます。単なる袋では使い勝手が悪く、使いやすい機能が求められるようになるのです。

今日、いちばん多く見かけるのが「ラケット型の背負いタイプ」。片端が細く、片端が太くて丸い、例のアレです。筆者はこれに「カタツムリ型」……、カッコつけて「キャナルタイプ」なんて呼んでいます。中でも多く見かけるのが、6本入りタイプを背負った中高生や大学生の姿です。彼らはラケバの中に、いろんなものを入れちゃいます。ラケットやシューズだけでなく、教科書やノートも投入するため、それなりにデカいバッグが必要となるのです。

ところが大人は違います。一般的に、年齢が高くなるほど、荷物は少ないほうがいいと思うもので、必要最低限のものに絞って携行するのが大人スタイルではないでしょうか。とくに大人がテニス用バッグを持つ場合の目的は明確で、生徒・学生のようにバッグの中にいろんなものを入れて持ち歩くということは少ないでしょう。まぁ、ラケバ本来の使い方をしているのが大人ということになりますね。

しかも、あのカタツムリ型を背負う姿は、すでに若者のスタイルで、それなりのオトナに似合うものではなくなっています。あれを担ぐオトナというのは、かなりテニスに入れ込んでいる方で、真っ黒に日焼けした顔には「一途さ」を感じます。それはそれなりに好感を持てるんですけどね!

とまぁ、それほどでもないオトナプレーヤーは、さほど大きくないバッグとして「バックパック型」を選ぶようになりました。スクール、仲間同士の練習などには、そのくらいのコンパクトさで十分です。家の近くならば、ウォームアップを着て、テニスシューズも履いていってしまうでしょうから、着替えとタオルくらいが入ればいいわけです。汎用性も広いし。

ただ……けっこう抵抗感があるのが「バッグの上にグリップが突き出ているスタイル」なんですよね。しかもグリップテープが汚れてたりすると、見かけても「なんだかなぁ〜」って思っちゃいます。以前にカタツムリ型ラケバを使っていたオトナは、やっぱりフルに収納できるバッグがいいよなぁと思うわけですよ。

そこで登場したのが「カタツムリ型×バックパック型」のバッグ。ラケットをゴジラの背びれのように背負うのではなく、背中に面が当たるスタイル。カタツムリ型の向きを変えたというか、バックパック型をグリップが隠れるまで伸ばしたというか……。いまやこうしたアウトドアスタイルが「オトナ・ラケバ」なのです。

合理的な機能を備え、プレーするのに必要最低限のフルスペック
〜ラケットは2本、シューズ、ウェア、そしてプラスα〜

OD841機能写真

まず、収納するラケットの本数は「2本」に限定してしまいましょう。草トーナメントに出場するのでなければ、2本あれば十分ですよね。そのうえで「オトナ・ラケバ」に必要不可欠なのはシューズ収納ポケットです。そもそもテニスシューズはオンコート専用と考えるべきですし、お勤め帰りにスクールへ行くときはもちろん、都会を電車移動する場合には、テニスシューズのままってことはありませんよね。

このシューズ収納に使いやすさを盛り込んだのが、プリンス【バックパックロングタイプ】です。似たようなスタイルは他社からもたくさん発売されるようになりましたし、たいがいシューズ収納パートも備えていますが、どれも収納スペースが小さく、「シューズを互い違いに合わせて収納」するスタイルです。でもこれだと、汚れたソールが外側になってしまうため、手も汚れます。それを防ぐには、別の袋に入れてから収納しなければなりません。これに不便さを感じたプリンスの開発チームは「そのまま並べて入れられるようにしよう」と、バッグの底部に幅を持たせ、シューズを揃えたままワンアクションで収納できるようにしたのです。

こうしてできた36cm×21cmという広い底部面は、バッグを完璧自立させることができます。これはとても便利な機能で、電車待ちでもホームにベタッとバッグを置く必要がなく、バッグのトップ部に設置されたポケットにも、立ったままでアクセスしやすいのです。一度使ってみれば、自立するラケバがどれほど便利かがわかるでしょう。

そして【バックパックロングタイプ】は独特の外観を持っています。底部は幅広く、奥行きもあるのですが、トップ部は錐形に絞られていて、背負ったときに肩のあたりがとてもスマートです。上下が同じ大きさだと、登山用のリュックみたいで、見た目にも重そうですが、これは軽快そうに見せてくれます。ストラップもしっかりしていて、クッションも厚く、肩への当たりが優しくなるような配慮がされています。たまにコストダウンのために、こうした細部が粗雑に作られたバッグがありますが、オトナはそんなバッグを選んではいけません。このバッグのように、きちんとした配慮されているものを選ぶべきです。

さて、いちばん大きい収納部のことを「メインルーム」と呼びますが、【バックパックロングタイプ】のメインルームは、バッグの横からアクセスします。さらにメインルームの中には「間仕切り」(インナーセパレーター)が装備されていて、自分の収納スタイルに合わせてコーディネートすることができます。内張りがプリンスのイメージカラーである明るいグリーンのおかげで、室内が明るくなるので、荷物を探すのに苦労しません。なにより「プリンス気分」がバリバリです!

ラケットを収納するには斜めにカットされた天蓋を開けるのですが、メインルームの蓋にもなっていますので、インナーセパレーターをセットすれば、小物類を入れておくのにちょうどよく、立てて置いて状態でアクセスするのに重宝します。軽めでアクセス頻度の高いものは、このトップ部セパレートルームに入れておくのがいいですね。

その他に、バッグ左右にドリンクも入れられるメッシュポケットを装備し、さらに中央部、天蓋外側にもポケットが設定されているため、外からのアクセスも便利な機能設計です。従来のバックパック型を使ってらっしゃる方にとっては、収納量が多く、機能的に出し入れできることが魅力。カタツムリ型を背負っていた方にとっては、無駄なスペースがなく、コンパクトな収納力を持つのが【バックパックロングタイプ】です。

さあ、あなたの移動スタイル……、気分を変えてみませんか!

松尾高司(KAI project)

text by 松尾高司(KAI project)

1960年生まれ。『テニスジャーナル』で26年間、主にテニス道具の記事を担当。 試打したラケット2000本以上、試し履きしたシューズ数百足。おそらく世界で唯一のテニス道具専門のライター&プランナー