【WIDE LITE V】最大の狙いは 「できるだけ疲れないシューズ」。「疲れさせない」コペルニクス的転換!

【ワイドライトVの秘密】……前編

足・脚が疲れる本質とは?
〜 「余裕」と誤解されてしまう「無駄な楽(らく)さ」 〜

今日のプリンス【ワイドライト】シリーズには、長いストーリーがあります。その前身は【エアロフィットゲーム】シリーズ(2005〜2016)で、「クラブプレイヤーが、快適に長時間のプレイを楽しめる」が開発理念で、それを発展させ登場したのが【ワイドライト】シリーズです。(2017~現在)

ところが2020年、さらに「快適さと軽量さ」を追求した【ワイドライト アドバンス】というモデルが登場。同時に本家【ワイドライト】は「疲れにくい」という親しみを守りつつ、競技志向ハイパフォーマンス」への道を進むことになりました。【スカイラインGTR】が、大衆車【スカイライン】とスポーツカー【GTR】に分化したような感じですね(笑)

そもそも【ワイドライト】が開発されるとき、プリンスでは根本的な基礎研究が行なわれました。週末のクラブで一日中プレイしたり、連日のプレイで疲労感が残ってしまうことがないようにするには、どうしたらよいか?」

プリンスは、まず「どうして疲れるのか?」からアプローチしました。すると、イメージ的に「楽」と思われている要素が、じつは逆に「疲れを溜める」ことになる事実が明確化したので、あえてそれまでの先入観を捨て、「シューズを脱いだときの疲れが少なくなる」ための要素を根本的なところから組み直してみたのです。

結論として導き出されたのは「疲れないシューズ」=「足に無駄な動きをさせない」というものでした。人は「余裕のあるフィット感」や「フワフワした感じ」から「楽(らく)そう・快適そう」という印象を受けがちです。でもそれが「必要のない余裕」である場合が少なくありません。「試履きでは優しくてよさそう…と感じたのに、プレイしてみるとなんだか疲れるよね」という感想があるのは、足とシューズの動きが効率的にリンクせず、エネルギーロスが大きかったり、ユルさをカバーするために逆に踏ん張らなければならない場合があるからです。

無駄にユルユルしていず、適切なクッション効果と、押し返してくれる力とのバランスが釣り合っていること。軽さを追求しながらも、必要なものはちゃんと装備されているべきだという考え方。そういうことを考えながら、「疲れにくいテニスシューズ」って、どうやって構築されているのかを、昨シーズンからの継続モデル【ワイドライトV】の新色バージョンで確認していきましょう。

軽いだけでは、期待の【ワイドライト】にならない
〜 強くて軽量なアッパーを作る「3素材」の組み合わせ 〜

【ワイドライト】ってくらいですから「軽く」なくちゃダメですよね。【ワイドライトV】では、アッパーのメイン素材に「ダブルラッセルメッシュ」といって、軽いメッシュ素材の中でも強度の高い素材を採用しています。

とはいっても樹脂製アッパーのような強固さはないので、メッシュの上に、薄くても丈夫な「TPU(熱可塑性ウレタン)フィルム」をしっかり熱圧着して、軽いのに丈夫で通気性のいいアッパーを実現しています。つま先と拇指球内側部は、TPUの厚みをグッと増し、摩耗に対してもばっちりケアです。

全体の軽さは「26.0cmで、平均重量が310g」。レディスサイズでは「24.0cmで、平均重量が270g」です。これはドンピシャ軽量タイプのスペックですね。

また【ワイドライト アドバンス】ではミッドカット(安心感が高いと評価)ですが、【ワイドライトV】は使用想定プレイヤーのスタイルを考慮し、ローカット(足首の自由度が高い)にしたことで、軽量化にも貢献しています。

プリンスシューズの信念「安定性」
〜 幾重にも対策される【ワイドライトV】 〜

【ワイドライトV】を履くプレイヤーの中には、かなり強い踏み込みをする方もいらっしゃるので、シューズの中で足がズレたりブレたりしないための安定性が必要です。強化されたといっても、メッシュだけでは十分な安定性を保てません。

そこでシューズ内の足を安定させるために、中足部の外側サイドと内側サイドを巻き上げるように配置されたのが「スタビリティーパネル」です。素材はポリウレタンのパネルですが、加熱&加圧によって、分子の結合性が強く、きわめて堅牢な「ヒートプレス加工」が施されている素材です。

この「スタビリティーパネル」は足の下辺エッジから巻き上げるように組み込まれ、足との一体感を高めます。またパネルは甲周りだけでなく、踵の両サイドまでカバーされており、内蔵ヒールカウンターとの一体性を高め、踵部までしっかり安定させます。

さらにソール部分に注目しましょう。まずソールの裏を返すと、アウトソールの中央に大きなプラスティックパーツが見えます。これは、足の前後への曲がりすぎを抑え、足の捩れを正常に制御する「外付け大型シャンク」です。

また見ることはできませんが、ミッドソールのセンターには「X型」のシャンクが内蔵されていて、プリンスは、アウト+ミッドという2つのシャンクを併せて「ダブルシャンク」と呼んでいます。

アウトソールに対して瞬間的に発生する「捩れの力」を、大きくて頑丈な樹脂製シャンクでコントロールし、柔らかいミッドソールの捩れをも抑えるという組み合わせシステムによって、足の挙動を複合的にコントロールしています。

足って、硬いように見えて、じつは柔らかい構造体です。片足28個の骨がつながりながら柔軟に動くことで、あらゆる接地環境に対応するためです。でも「曲がってはいけない方向」というのがあり、そうならないようにコントロールするのが「シャンク」の第一の役目です。

さらに、足に不合理な動きがもたらす負担を抑えることで、エネルギーのロスを小さくし、「足が動くべき方向」へ誘導することで、蹴り出しエネルギーを集約するように進化させたのが、プリンスのダブルシャンクなのです。

フワフワなクッション感の落とし穴
〜 「圧」を「面」で受け、拡散して緩和する発想 〜

多くの方が「クッション=柔らかい」というイメージを持っていると思います。でも、ただ柔らかいだけだと、むしろ大きな負担やダメージをもたらすこともあるのです。

普通に走る場合、踵へかかる衝撃は「体重の3倍」と言われています。テニス競技において、サイドへ強く踏み込むような状況では、おそらくその何倍もの力がかかるでしょう。その瞬間、足裏のとても狭いスポットに、体重の数倍の重さが集中します。

今日、競技系モデルのほとんどのミッドソールには「衝撃緩和材」が内蔵されていて、踵への衝撃を緩和するようになっていますが、これがフワフワと柔らかすぎると、踵が沈みすぎて地面との距離が近くなり、クッションの余裕がなくなって、次の瞬間に「ガツンという突き上げ衝撃」を受けることがあります。でもやっぱり「柔らかくないと」、衝撃は緩和されません。

……じゃあどうすりゃいいってんだ!
それにプリンスが出した結論が「衝撃を分散するシステム」です。足裏と衝撃緩和材の間に「ほんの少しだけ硬めの素材を挟む」のです。それが「TPE(熱可塑性エラストマー)インナーソール」で、上からの衝撃をいったん「ちょい硬」のインナーソールで受け止め、その下の柔らかい衝撃緩和材へと分散させます。

いわゆる「ディフューザー効果」。このシステムはプリンスシューズが15年以上前から採用してきた『リニアテクノロジー』の理念を引き継ぐもので、言ってみれば「足裏全体クッション」みたいなものです。

「インナーソールがちょい硬」と話しましたが、その下のインソール(中底)には高い衝撃緩和効果の『オーソライト』が全面に敷かれているため、心地よいマットの上にいるような感覚があります。

店頭で試履きするとき、私たちはつい「足裏クッションが柔らかいと、フィットする気がする」ものですが、メーカーとしては「最初の印象で柔らかく感じさせる」ことで好印象を持たれるので、あえてそんな感じにしているように思います。

でもテニスシューズは「使ってナンボ」なんです。沈み込みが大きい「柔らかいクッション感」は、たしかに第一印象はいいですが、快適に長く使うことを思えば、「衝撃をいったん面で受け、その下で効率的に緩和する」ほうが、足裏に優しく、衝撃緩和機能も長く保たれるのです。

もちろん【ワイドライトV】のミッドソールには、「踵部」に着地時の衝撃緩和効果の高い素材、蹴り出しに機能する「踏み付け部」には、踏み付けパワーを推進力として押し返す反発性の高い素材が内蔵されています。

この【ワイドライトV】は継続新色バージョンであり、通常では「カラー変更」だけが行なわれるものですが、じつは大きな「アップデート」が行なわれています。それを話すには、もっと長くなってしまうので、イレギュラーではありますが、「ナイショのスペック変更〜編」として、第二話を緊急アップしますので、ぜひそちらもご覧ください!

松尾高司(KAI project)

text by 松尾高司(KAI project)

1960年生まれ。『テニスジャーナル』で26年間、主にテニス道具の記事を担当。 試打したラケット2000本以上、試し履きしたシューズ数百足。おそらく世界で唯一のテニス道具専門のライター&プランナー