新【WIDE LITE V】は、ただの「継続新色」ではない。ナイショのアップデート敢行!

新【WIDE LITE V】は、ただの「継続新色」ではない。ナイショのアップデート敢行!

 【ワイドライトVの秘密】……後編

「ラスト」って何? それは靴作りで最高に大切なもの
〜 製造工程における「ラスト」の存在 〜

みなさんは「ラスト」という言葉を知っていますか?
「最後」の「Last」とまるで同じ「Last」で、『木型』の意味です。靴作りにおいて、足の形を模した「原型」で、『足型』『靴型』とも言われます。「靴の良し悪しに最終的に影響を与える」からとか、「足跡」を意味する古典英語に由来するなどの説があります。

オーダーメイドで革靴を作るときには、自分の足の形をベースに「個人用ラスト」を作ってもらい(近い形状の汎用ラストを調整することもある)、履いたときには完璧なフィット感が実現します。でも一般大量生産では、お客様個人個人のラストを作るわけにもいかず、平均的な足の形に合わせたものを使うことになります。オーダーメイドや生産設計段階では、実際に木製の「木型」を使うんですが、大量生産用には樹脂製ラストが使われます。

シューズの製造工程では、アッパー(甲被)とインソール(中底)を袋状に縫い合わせ、その中にラストを挿入して、足入れ空間の基本を作ります。ですから、ラストの形が、そのシューズの足入れ感のすべてを決定することになるわけで、製品として見ることはできなくても、ラストはとても重要な部品であるわけです。

「ラスト形状」のタイプと、世界で違う「つま先の形」
〜 日本人の足型を平均化したプリンス独自のラスト 〜

足型というのは、全世界共通ではありません。世界各地、それぞれに特徴があり、「エジプト型」「ローマ型」「ギリシャ型」「ドイツ型」「ケルト型」という5つの足型があるとされます。特徴的な違いが表われるのは「つま先の形」で、日本人の約70%が「親指がもっとも長く、人差し指から小指にかけてなだらかなカーブを描く『エジプト型』だと言われています。

現在、国内で発売されている日本企画のプリンスシューズでは、「エジプト型」をベースに、日本人の足型に最適化したラストを使用して製造されています。すべての人に完全にフィットする! とまではいきませんが、全世界の平均型ではなく、あくまで日本人のために開発されていることを知っておいてください。

それからs、ラストのスペックは「つま先の形」だけでなく、「足囲」「ウィズ」というものがあります。簡単に言うと「細身」「ワイド」の違いで、足の親指の付け根(拇指球部)と、小指の付け根(小指球部)を結ぶ線の「周囲の長さ」によって、足長サイズ別にタイプ分けされます。

プリンスシューズでは、ガチ競技系の【ツアープロZ】が「2E相当」、この【ワイドライト】が「3E相当」、そして足幅が広いプレーヤー向けの【ワイドライト アドバンス】が「4E相当」となっているので、選ぶ際の目安として、わかりやすいセッティングですね。

プリンス独自のつま先形状に注目
〜 無駄を削ぎ落した個性的な形 〜

さて、「エジプト型」の話に戻りますが、この足型には、「オブリークトゥ」というつま先形状が合うとされています。「オブリークトゥ」は、ラウンドトゥ(丸型つま先)の先端を切り取ってちょっとだけ角型に近づけた「セミスクエアトゥ」とも呼ばれ、ドンピシャの「スクエアトゥ」よりも丸みを帯びた、ラウンドトゥとスクエアトゥのいい部分を合わせたような特徴を持っています。

一般的なテニスシューズでは、中指が長い「ギリシャ型」の足にも対応するためか、つま先の先端が丸めのラウンド形状になっていますが、つま先部に「多くの人にとって機能しない余分な空間」があると、蹴り出しパワーの伝達効率は低下し、引っかかりや摩耗による穴あきなどの問題も生じるため、「ちょっとだけセミスクエアトゥ」というのが、プリンスシューズの特徴の一つになっています。

筆者は1996年に発表された『NF』(Natural Foot Shape)の時代から、このつま先形状が大好きで、足の人差し指がとても長いというプレイヤーでなければ、ぜひ試してみてもらいたいつま先形状です。

ユーザーのために、精密度向上の製法アップデート!
〜 よりラスト形状に忠実な足入れ感に 〜

じつは、みなさんに伝えておきたいことがあります。
これまで【ワイドライトV】を履かれてきた方が、今回の新色を買おうというときは、お手数でも「もう一度、店頭でサイズの確認を」していただきたいということです。

というのは、今回からシューズの製造テクノロジーに「重大なアップデート」があり、足入れ感に「従来モデルよりもわずかなゆとり」ができるようになったからです。現在の店頭に並ぶカラーのモデルとは、基本的には「同一モデル」なんですが、テニスシューズの作りを、より精密化するために行なわれたことだということです。

シューズは「アッパー」と「インソール(中底)」とを縫い合わせて袋状にしたものに「ラスト(足型)」を挿入し、これにソールを接着して加熱します。こうすることで、アッパーをラストに馴染ませ、ラストどおりの形に成型されます。そして、この行程がすむと、ラストは抜き取られるのですが、ラストを抜き取られたアッパーは内側へわずかに戻ってしまうため、厳密に言うと「ラストどおりの形状」よりも、やや小さいものになってしまうのです。

しかし新製法では、ラストをアッパーの中に留め置く時間を従来製法の「およそ2倍」(3時間→6時間)にし、アッパーがラストどおりの形にしっかり落ち着くまで待つようにしました。こうすると1足あたりの作業時間が長くなってしまい、効率重視の生産では避けたいところですが、プリンスはあえて「ラストどおりの精密な再現」する製法を選んだのです。だって、それが「原型」なんですから!

ですから、新色【ワイドライトV】は、既存モデルよりも「わずかにゆとりができた足入れ感」となって、場合によっては「1サイズダウン」が最適フィットとなるかもしれません。つまり、これまで26.5cmの【ワイドライトV】を履いていた方は、「26.0cm」がベストになるかもしれないということです。

「同じモデルを買い替えるだけなのになぁ……」と面倒に感じるでしょうが、新色【ワイドライトV】を購入する場合は、店頭でもう一度、足入れさせてもらい、サイズの再確認をするのがいいでしょう。

筆者の経験から言うと、こんなアナウンスをするメーカーはありません。黙って「実際よりも1サイズアップ」の表示をして出荷しちゃったりするのですが、プリンスというメーカーは、どうにも正直なんですよね。「良いシューズを履いていただきたい」というプリンスの願いが、この「同モデルアップデート」→「最適サイズの再確認」ということになったのだと思います。その誠実さを、どうか理解してあげてくださいね。

WIDE LITE Series特集ページはこちら
https://princetennis.jp/product-category/tennis/tennis-shoes/tennis-shoes-widelite

松尾高司(KAI project)

text by 松尾高司(KAI project)

1960年生まれ。『テニスジャーナル』で26年間、主にテニス道具の記事を担当。 試打したラケット2000本以上、試し履きしたシューズ数百足。おそらく世界で唯一のテニス道具専門のライター&プランナー