この10年間で大きく変わったラケット携行のスタイル。【ラケット収納の変化】はバッグの流行りから生みだされた

この10年間で大きく変わったラケット携行のスタイル。【ラケット収納の変化】はバッグの流行りから生みだされた

この10年間で大きく変わったラケット携行のスタイル
〜 ラケットバッグからデイパック志向へ 〜

時代はつねに動いています。テニス界では、とくにこの20年間の変貌は刮目に値します。まずテニスそのものが変わりました。男子トッププロのプレイスタイルは「強烈トップスピン」「ハードヒット」「ダブルバックハンド」……パッと見、誰と誰が対戦しているのかわかりません。

昔は、プレーヤーそれぞれに、独特の「個性」があり、違う個性のぶつかり合い・駆け引きなどがとても面白かったものです。プレイスタイルにしても「ベースラインプレーヤー」「サーブ&ボレー」「ドライブ系ストローク派」「トップスピン系ストローク派」「タッチ派」。バックハンドにしても「シングルハンド」「ダブルハンド」と、スタイルはさまざまな組み合わせでバリエーションが展開します。

「同じようなスタイルでしのぎを削るのが現代テニスだ!」と言われればそうなのかもしれませんが、1970年代からテニスを見てきたジジィには、なんだかねぇ〜。
と、ボヤいたってしょうがないわけですけど、現代テニスがこんな感じになった原因の一つが「ポリエステル系ストリング」の擡頭です。昔は「ナチュラルガットはプロの勲章」の一つでしたが、いまではナチュラルガットを使うプロは皆無となり、ハイブリッドからもナチュラルガットは閉め出されています。「飛ぶラケット」に「飛ばないストリング」を張って「思いっきり引っ叩く」という、足し算なんだか引き算なんだか……(笑)。

そして我々一般テニスプレーヤーに目を向ければ、移動の姿がすっかり変わっちゃいましたね。以前は「テニスを始めるなら、ラケット・シューズ・ウェアにラケットバッグ」って感じで、初心者でもラケットバッグをかついで練習に向かっていました。多くのプレーヤーが、いわゆる「6本入り」をかついでいましたが、たまに「12本入り」の大型ラケットバッグを背負った学生が「ボクさぁ、ちょっと本気でテニスしてんだよね」と、ちょっと自慢げな日焼け顔。

でもね、どうして「6本入り」だとか「12本入り」なんて呼び名がまかり通ってしまったんですかね? 「だってマジで6本入れるヤツなんかいないじゃん」。テニスを知らない人たちから見れば「えっ? 6本入れるんじゃないの???」ってなりますよ。テニス業界独特の、おかしな呼び名の慣習ですね。

おかしいっていえば「バックパック」が通用語になっちゃってることでしょ。プリンスでも『バックパック』って呼んでるけど、バックパックってのは、金属製のフレームが付いているデッカくてガッチリしたのを言うんですね。それよりちょっと小型のが「リュックサック」で、昨今、世間のみなさんが日常で背負っているのは「デイパック」、それより簡易型で巾着袋式のを「ナップサック」って言うわけです。
いまさら声を大にしても、素直に聞いてくれる人はいないだろうけど……。

というわけで、筆者の原稿ではすべて『デイパック』と世界標準で書いているので、みなさんもプリンスさんも、どうか悪しからず(礼)

で、この10年くらいの間に、ラケットバッグを持つ人がぐーんと減って、かわりに激増したのが『デイパック+布バッグ』。この「布バッグ」は、ラケットを買ったときにオマケとして付いてくる、おもにビロード調の生地でできている袋のこと。先に話した「正しい呼び方」では『ナップサック』です。ラケットが入るように長〜くしたナップサックなんですが、なぜかそうは呼ばないんだな、これが。

こうなったのは、世間が「デイパック」を愛するようになり、学生からサラリーマン、自由業の方はもちろん、オバさま・オジさま・オジぃちゃままで、みーんな大好きデイパック! 電車に乗れば、まず半分くらいの人はデイパック姿。両手が自由になり、いつなんどき熊に襲われても素早く逃げられます。

テニスプレーヤーのみなさんも、このブームに完全に乗っかり、ラケットが入るように設計されている「テニス用デイパック」に、わざわざ例の布袋に入れてから、挿しているんです。プリンスでは、この布袋を【スライディングバッグ】と呼んでいます。

もはや欠くことができなくなった「布バッグ」の価値
〜 無料付属・タダ → 選んで・購入 〜

デイパックを製作するメーカーとしては、ラケットをそのままバッグに挿し、グリップは露出したまま……というコンセプトで、「布袋に入れてから」という使い方は想定していなかったと思います。「汚れているグリップを露出するのは恥ずかしい」というユーザーの声もあり、グリップカバーなるものを装備するデイパックもありますが、どうやら日本人は、「まるごと包んでしまいたい」というマインドを持っているようです。

それを感じさせるのが『風呂敷』という文化。まさに『包む』という風習で、書類を風呂敷に包んで持ち込む弁護士は今でも多いし、お金を渡すときも『包む』って言いますよね。風呂敷で包むのは、四角いものばかりでなく、丸いスイカから、一升瓶まで、どんな形のものでも「包んでしまう」んです。ラケットだって、どこか露出していたって不自由じゃないんだけど、どうしてもまるごと隠してしまいたい……それが日本人。だからすっぽり入れることができる、あの布製の袋が便利に思われるんです。

それから「無料で付いてくる」というのも、ここまで布製バッグに人気が集まった原因でもあるでしょう。タダなのに、使い勝手がいいし、他のバッグと併せ持ちできる。大きなバッグに挿してもいいし、袋に入っていればラケットだけ手に持ってもいい。しかも巾着を締める紐をそのままかついでしまうこともでき、粗忽な人は、ラケットが入っている布バッグに、さらにタオルやら小物やら入れて、たっぷり膨らませて持ち歩いています(みっともないので勧めません)。

ところがここに来て、この布袋のオマケをやめるメーカーも出てきました。プリンスラケットは「専用スリングバッグ付属」で販売されていますが、今後はどうなっていくかわかりません。こんなにみんなに活用されていて、必要とされているものでも、わざわざ買わなきゃいけない時代がくるかもしれません。

もはや「オマケに期待」していちゃダメよ……ってことですね。みなさんにしてみりゃ「タダだから黙って使っていたけど、買うってことになれば『選ぶ』よ!」ってことになるでしょう。そうなれば、素敵なのがほしいです。ネットなどで探しても、なかなかカッコいいのがないんですよ……って……
プリンスで売ってるじゃないですか!
ちょっとスポーツくさくなく、お洒落で、バッグに入れたりせず、そのままかついで歩きたくなるような『スライディングバッグ』が!

大人っぽさを纏うプリンスアパレルとのリンケージ
〜 『Lee』もあるよ 〜

ここでちょっとテニスウェアの話をさせてください。このコラムでも何度か紹介しましたが、プリンスのテニスウェアって『大人のウェア』って気がします。どうしても子供っぽいデザインが多いテニスウェア市場ですけど、プリンスだけは、どこか雰囲気が違う。
WEBトップ画面の右上にある[LOOK]をクリックしてみてください。[コラム]の左隣のボタンです。すると【Princeカタログ一覧】が表われますから、ここからこれまでのいろんなカタログを見てください。

この雰囲気で、プリンスの【スライディングバッグ】も作られていて、まず生地から違います。例の「ビロード風」ではなく、ゲームシャツなどで使う「しなやかで肌触りのいい素材」を使っていて、負担のかかる下部にはしっかりした素材で補強します。

そう! この補強素材のおかげで、ラケットを入れたときに底部がラケットの形に丸くならず、カチッとした感じで肩に担ぐことができます。ラケット付属の袋もすべてその仕様で、筆者はそれがとても気に入っているんです。

さて話を戻しますが、このアパレルイメージの【スライディングバッグ】は、現在3タイプがラインナップされていて、女性に似合う【019】カラーは「2021 FW」のレディス ストレッチスカートやバイザーに使われている「レッドチェック」。
【127】カラーも「2021 FW」のメンズポロなどに使われている「ネイビー」。なんとも大人っぽいですよね。
そしてとてもインパクトのある柄が【110】の「ブルー」です。このカラーは「2021 SS」で発表されたメンズ&レディスのゲームシャツなどに使われた「花柄のような絞り柄のような」モチーフで、パッションを感じさせるイメージをバッグに使ったわけですが、それだけで独立した雰囲気が生まれ、「ラケットが入っている」なんて気がしません。中途半端な「それっぽい」イメージから完全に脱却したところが、この【スライディングバッグ】の存在感です。

そしてプリンスでは、アパレルブランドの【Lee】とのコラボレーションで生まれた【Lee Prince】13アイテムのバッグをラインナップしていて、その中でも大好評なのが【LA0309 スライディングバッグ】です。

特徴は「素材」! 綿100%のナチュラルな風合いで、カラーは2種類。
「040ベージュ」……というより「生成り」ですね。帆布に使われるような色で、漂白や染色をしていない素材そのものを表現しています。
そしてもう一つが「110ブルー」なんですが、こちらは薄めのインディゴブルーです。世界的ジーンズメーカーである【Lee】らしさの主張です。
そんな【Lee】らしさの極めつけシンボルデザインが「ヒッコリー柄のポケット」です。「ジーンズのお尻のポケット型」が、なんともカワイくて愛嬌のある表情を作ってくれるじゃないですか。

機能優先で使いやすいデイパックや、たくさん入るダッフルバッグ、そして気軽に持てるトートバッグなどと併せて持つとき、ラケット袋で楽しんじゃいましょう。
これからのラケット袋は「選んで買うもの」です。

松尾高司(KAI project)

text by 松尾高司(KAI project)

1960年生まれ。『テニスジャーナル』で26年間、主にテニス道具の記事を担当。 試打したラケット2000本以上、試し履きしたシューズ数百足。おそらく世界で唯一のテニス道具専門のライター&プランナー