13年めにしてフルモデルチェンジ大改革。
その裏側の事情を知ると見えてくる
【BEAST】Reborn……の真実

「五代目」は、モデルチェンジというより、もはや『新作モデル誕生』だ!
〜【ウォーリアー(米国)】【ハリアー(日本)】→【新ビースト】へ 〜
デビューから13年めにして、【ビースト】がフルモデルチェンジを果たしました。これまでは自動車界での「マイナーチェンジ」に相当する引き継ぎでしたが、今回は本当の「フルモデルチェンジ」です。
「何が新しいの?」
それは、ラケットフレームの形が大きく変わった点です。ラケットメーカーにとってフレーム形状のリニューアルは大問題。ラケットを作るときには、カーボン繊維などの積層を筒状に巻き、それをモールド(フレームを成型するための金型……わかりやすく言えば「鯛焼きの型」のようなもの)に詰めて加熱硬化させて成型します。
モールドって、非常に高価で、量産のためにはそれなりの数のモールドが必要となるわけで、ラケットフレームの形を変えるということは、「まったく新しいモールドに総取っ替えで、新規に作る」わけで、そこに多額の製造コストをかけることになるのです。これはメーカーにとって「非常に大きな賭け」となりますが、ついに今回の新【ビースト】で、踏み切ることになったのです。
近年の黄金スペックモデルの傾向は「ゴツくて太いシャフトによる高剛性化」が目立ち、その硬い打球感をなんとかするため「マイルド化の仕掛け」があれやこれやと組み込まれています。ゴツくて太いシャフトは、しなり剛性が高くて硬い → パワーの逃げが少ないから、反発性が高い。そのかわり腕・肘には「硬さ」の反動もあって、負担を大きく感じさせるために、「ソフトでマイルドな打球感」を演出しようというのが「高反発スピン系パワーモデル」の動向なんです。
みんながそういった感じですし、これまでのプリンスグローバルによる【ビースト】も同じ流れに乗っていたため、日本のプリンス(グローブライド)もそれに従わざるを得ませんでした。……が、新【ビースト】では、その流れから脱出する機会を得ました。
というのは、プリンスというブランドを扱う日本の『グローブライド』は、単なる輸入代理店ではなく、「グローブライドは日本独自のプリンス製品を製造販売してよい」という「アンダーライセンス契約」もしていて、「日本オリジナルのプリンス」を製造販売することができるわけです。筆者が知る限り、その企画練度は間違いなくハイレベルです。
ただし「プリンスグローバルがラインナップする『同名モデル』は、日本でも同じモールドを使って製造販売しなければいけない(コスメティックは許容枠あり)」というシバりがあるため、グローバルが【ビースト】の名を使う限りは、日本が「違うビースト」を作って売ることは許されず、グローブライドは日本オリジナルの【ビースト】を作ることができなかったのです。
ところがグローバルプリンスが【ビースト】をラインナップから外すことになったために、その縛りから解放され、グローブライドは日本オリジナルの【ビースト】を作ることができるようになりました。これが今回の【ビースト】フルモデルチェンジの背景です。
グローブライドは「競技プレイヤーが勝負に出る感覚に合わせた【ビースト】大改造を断行のチャンス!」と奮起し、ここに「日本オリジナルの新【ビースト】」が完成しました。グローブライドでは「フルモデルチェンジ」と言うのですが、筆者の感覚からすれば、ほぼ「ニューモデル誕生」ですね。
競技プレイヤーたちは願っていた……獰猛さに「牙」を取り戻せ!
〜 マイルド化も楽でいいけど「ここぞってときには牙を剥け!」 〜
日本のプリンスであるグローブライドには、明確な『ビースト大改革戦略』のビジョンがありました。これまで【ビースト】は、球を持つ時間が長くてマイルドという「昨今の黄金スペックらしい」評価を得てきました。でもいっぽうでプロ選手や競技プレイヤーたちからは「【ビースト】は、普通のラリーではよく飛ぶし、快適に打つことができるんだけど、ここぞっ!で叩くタイミングでは、掴んでいる感覚が長いせいで、自分のイメージよりも遅れて球が出ていく感じがする」「実際にはよく飛んでいるのに、感覚として『飛んでくれない』って気がしてしまう」というヒアリングデータを多く持っていたのです。
そこでグローブライドは「競技プレイヤーが勝負に出る感覚にマッチする【ビースト】にするため、大改造しよう!」と、モールド完全改革によるフルモデルチェンジに挑みました。
まっさきに「違い」を感じさせられるのが「スマート化」。フレームを正面から見たときのフレームの厚さ(正面厚)が明らかに薄くなっています。じつは、これまで「レクサスフレーム」という「ボックス形状とエアロダイナミック形状の合体型」だったフレーム断面のシェイプに手を加え、従来モデルよりもエアロシェイプ感を増して「エアロフェイス化」(より紡錘型が強く)したのです。その結果、シャープな印象を得たことで、いかにも振り抜きやすい姿になりました。
これによって、打球の飛びはしっかり確保しながら、振動と衝撃が少ない打球性能を獲得するに至ったわけです。

それを可能にしたのは、プリンスが持つ『テキストリーム×ザイロン』という強靭な究極カーボン素材のおかげです。太くてゴツいシャフトが「塊の強さ」であるのに対して、『テキストリーム×ザイロン』は、「強靭な筋肉バネ」というところでしょうか。これがあるから、スリム化による『ビースト大改革』が実現したのです。
振り抜けるスマート化と、『テキストリーム×ザイロン』の関係
〜 「しなり→戻りが速い」動的レスポンス 〜
いい機会なので、ここでもう一度『テキストリーム×ザイロン』の特殊な優秀性について話しておきましょう。
それは……単に「硬い」だけじゃない! ということ。
「しなり→戻りが速い」という高度な動的レスポンスを持つのが、テニスラケットではプリンスだけが使うことができる素材『テキストリーム×ザイロン』です。
んっ? 「高度な動的レスポンス」ってナニ?
これはプリンスオフィシャルの言葉ではなく、筆者が勝手に作った造語です。
ラケットフレームの反発性能を示す数値の一つに「RA」というものがあります。これは、グリップを固定してフレームトップに加重することで、どのくらい変形する(しなる)かを測るものですが、これは「静的なしなり計測」です。受け取り方としては、その数値が高ければ高いほど「しなりにくい=パワーを逃がさずに使える」という感じです。
しかしながら、インパクトの現実でフレームに起こるのは「しなる→戻る」という「動き」であり、これを「静的なしなり具合の計測」で知ることはできません。どういうことかというと、通常のカーボンによる強打時は「しなる→ボールが飛び出す→戻る」というタイミングで、インパクトが終了します。これは、フレームのしなりが完全に戻りきらないうちに、ボールがストリング面から離れてしまうということで、フレームの「しなり→戻り」の効果を打球への推進力に100%活かすことができていません。
いっぽう、カーボンを「剛体」というより「筋肉」として使うのが『テキストリーム×ザイロン』という素材です。これは、一般的なフレームと同じように、インパクトの力によってフレームはしなるのですが、しなり切ったところからの「戻り」が速いのです。つまり、ストリング面がボールを弾き出すタイミングにシンクロしてフレームが「しなる前の状態」に戻るため、インパクトでボールが生み出した「しならせる力」を「ボールを押し出す力」へ、フルに還元することができるわけです。

ひとくちに「カーボン素材」と言いますが、それにはさまざまな種類があり、引張りに対して強い「高強度カーボン」、曲げに対して強い「高弾性カーボン」などの個性を持ったものや、両方を複合的に持つものも多数あります。これらは「カーボン繊維自体の素材特性」による分類ですが、『テキストリーム』は「カーボン繊維によって構築する構造的マトリクス」であり、軽くて高強度ですから、少ない使用量でも大きな強度補強を行なうことができ、それだけフレーム設計の自由度を高めることができるカーボン構造体。これに『ザイロン』を織り込んで構築されるのが『テキストリーム×ザイロン』です。
ちなみにプリンスに使われる『ZYLON』は、日本の繊維メーカーである『東洋紡』が生み出した「超高強度PBO繊維」であり、鉄より10倍も強い引張り強度、ケブラーなどのアラミド繊維の2倍の強度と弾性率を誇る世界最高水準のスーパー繊維です。ご注意いただきたいのは、同じく「ザイロン」と読む『XYRON』の存在で、これは『旭化成』が作った変性PPE樹脂(エンジニアプラスティックの一種)で、『ZYLON』とはまるで違うものです。ちょっと専門的になりますので、もし興味をお持ちの方は、お調べになってみてください。
『TeXtreme×ZYLON』には、3つのメリットがあり、
1. シャフトを硬くすることなく、フェイスの捩れ剛性を高める
2. 「しなり→戻り」が速い(球離れと復元とのタイミングシンクロでパワー効率向上)
3. 『ZYLON』による振動減衰性の向上
こうした超高機能カーボン構造体による設計自由度の優位性があるからこそ、シャフトをゴツくしなくても優れた強度を実現でき、スマートに仕上げることができるわけです。
【ビースト】未体験プレイヤーに打ってもらいたい9つのバリエーション
〜 どれがマッチするか「打てばわかる」、テニスが「変わる」 〜
最後に、9つのバリエーションの機能的個性を挙げておきましょう。
ラインナップのウェイト設定は下記のとおりです。
BEAST 100: 300g 280g
BEAST O3 100: 300g 280g
BEAST 98: 305g 285g
BEAST O3 104DB: 275g
BEAST TEAM 100: 285g
BEAST TEAM 100L: 270g
「テキストリーム×ザイロン」「レクサスフレーム+エアロフェイス」以外に、全モデルに共通している主要テクノロジーが、「テキストリーム×ザイロン」をシャフト部とフェイスの2時&10時の位置に配置して、局所強化による「面の捩れ剛性アップ」。安定性と振動減衰性を高めてクリアな打球感にする「ATS(アンチトルクシステム)」。さらにブリッジ部のグロメットを2層式にして衝撃緩和効果を得る「2ピーススロート」を設置。

【BEAST 100】【BEAST O3 100】は、トップから「24-26-23mm」厚で、いわゆるデュアルテーパーですが、従来は「最大厚26mmの部分がほぼ1ポイントだけ」だったのを、新作では「従来より幅広いレンジで26mm厚を確保」したことで、スウィートエリアが広がり、パワー増強も図られています。
ただ【BEAST 98】では特別に「最大厚24mm」の「CTS」にして、競技レベルの高いプレイヤーが「スウィートエリアが上に広がっているのを好む」傾向に対応しています。また、この【BEAST 98】の注目点は『285gスペックが追加された』ということです。
ハイレベル競技系では、どうしても「300g以上」と思い込んでしまいますが、【ファントムグラファイト 100XS】でも『285gスペック追加』が話題になり、各方面から高評価を得ていました。ですから今回の【BEAST 98 285g】も話題になるでしょう。筆者のシンクタンクの一人である「ウインザー池袋店の中居晃氏」によると、「成年・壮年プレイヤーって、楽になりたいんだけど、周囲の目を気にして、フェイスサイズを大きくするのに抵抗がある。でも同サイズで15〜20g軽くすることで救われるって人が多いです」という情報もあります。【BEAST 98 285g】追加スペックもまた、新しい「ビーストファン増加」のカギになりそうな気がします。
さらに、従来は「100モデル」に搭載されていた「DB System」のダブルブリッジ搭載を【BEAST 104 DB】のみにシフト。この「エラストマーによる衝撃緩和機能構造」は、そもそもこのモデルの元となった【ハリアー】の専売特許でしたが、これを好むファンがベテラン化しつつあることもあり、それに対応した「親身の設定」かと感じられます。
さて……、もっとも最初に気になったはずですが、最後の最後に話すことになってしまったのが、衝撃的に変わったカラー&デザインです。これはデビュー以来12年間も続いてきた「【ビースト】=情熱的で燃える赤」というイメージを完全にひっくり返す大胆なデザイン変更です。

つまり、「それくらい完全に生まれ変わった」ということで、プロダクトデザイナーの松崎氏は、「夜空をイメージしたカラーに大胆変更しています。光の加減でダークネイビー ⇔ やや紫っぽい見え方をするコスメティックにして、宇宙空間を想像させる『ギャラクシーネイビー』と名付けました」と話します。ちょっとボッテリした印象のあった従来の赤フレームが、ギャラクシーネイビーになったことで、実際に引き締まったボディを、さらにスマートに見せていますね。
塗装仕上げは「艶消しのマット塗装仕上げ」なのに対して、【BEAST 98】だけが「艶ありのグロス仕上げ」となっています。競技志向の強いプレイヤーの多くが、キラッと光るグロス仕上げを好むこともあって、このモデルだけがスペシャル塗装仕上げとなりました。
【BEAST】のロゴもイメージを一新。昨今ではモデル名がわかりにくい文字デザインが増えているような気がしますが、これはスッキリ、視認性が高く、シンプルで清々しいと感じます。

こうして、新しい【ビースト】は完全に生まれ変わりました。これまでの飛びの快適性を引き継ぎながら、強者が襲いかかろうという瞬間には「強烈な獰猛さで牙を剥く」野性を増しています。あの【ビースト】が、日本によってどんなふうに完全改造されたのか? 気になりますよね。
全国各地で『TRY! THE BEAST』という試打キャンペーンもありますし、「WEBラケットレンタルプログラム」も常設されていますので、【ビースト】を使っていないお友達と、ぜひいっしょに試してみてください!

